部屋に戻ると、美咲は「あー。美味しかった」と言って、部屋に初めて入ったときと同じようにベッドにダイブした。あんだけ食って横になるようなやつがこの華奢な体形を維持できるのは一体なぜなのだろうか。それだけが本当に不思議だ。
 俺は美咲につられて結構食べてしまってかなりキツイ。美咲みたいに今、横になったら大惨事になりかねないのでゆっくりと自分のベッドに腰かけた。

「いやあ。今日一日楽しかったね」

 寝転がったまま枕をギュッと抱いた美咲が上目遣いでこちらを見ながら聞いた。

「ああ、楽しかった」
「そっか。そっかあ。一緒に来れて良かったあ!」
「ありがとな」
「え?」

 俺がそう礼を言うと、美咲は何のことかわからないような表情を浮かべた。

「誘ってくれてありがとうってことだよ」
「何かそう言われると照れちゃうー」

 美咲は酒でも飲んで酔っ払ったかのように足をジタバタをさせてさっきよりも枕を強抱きしめて大きな声を上げていた。そうやって喚いていたかと思ったら急に静かになり、起き上がってこちらを真っ直ぐに見つめた。

「こっちこそ来てくれてありがとう」

 改まった表情でそう言う美咲を見て、俺は思わず吹き出してしまった。そうしたら、美咲も大きな声で笑いだした。

「何で飛鳥くん、笑うの!最低だよ!」
「お前だって俺が真面目に何か言うと笑っていただろうが。お互い様だ!」
「飛鳥くんの場合はおもしろいからいいんだよお」

 そんなことを言い合いながら俺らは大きな声を上げて笑っていた。

「本当に相変わらずだなあ。出会ったときから」
「うん。そうだね」

 そう言って美咲はベッドから立ち上がると、部屋の冷蔵庫からコーラを取り出し、横に置いてある一杯何かが詰まったコンビニのビニール袋を持って来た。
 テーブルの上にビニール袋をひっくり返すとポテトチップス、板チョコ、煎餅、グミといったお菓子からサラミやあたりめのようなおつまみが並んだ。美咲は部屋にあったテーブルにあった二つのコップにコーラを注いだ。

「せっかくだし、食べながらお話ししようよ」
「俺が風呂入っている間に買って来てくれたのか。ありがとな」
「気が利くでしょ。それじゃあ、乾杯」

 俺たちは乾杯した。それから俺たちはお菓子とコーラをを飲みながらたくさん話をした。
 美咲が俺のことを盗撮してそれをネタにカフェに脅迫に近いような形で誘われたこと。美咲がボーリングを初めてやったというのに天才的な上達をしたこと。ラーメン屋で美咲がデカ盛りを楽々と食べて俺が撃沈したこと。カラオケでお互いの好きなバンドが一緒だって知れたこと。世界が終わるということを信じるようになったとき。そして美咲にひどいことをしてしまったこと。そんなことした俺を屋上で見つけてくれたこと。ライブで全力で楽しんだこと。ファミレスでたくさんバンドについて語り合ったこと。終電を逃して公園で一夜を過ごしたこと。プール掃除のあと二人で見た花火。たくさんの思い出を話した。

 思い出だけしか話せない。やりたいこと。行きたいところ。これからのこと。そんな話はできないこと。俺も美咲もきっと言わないだけでわかっている。それなのに俺たちは笑いながら、からかい合いながら思い出話をした。
 風呂に入っていたときは自分が死ぬことを考えていたのに今ではこんなに笑っているなんて、本当におかしいな。ただ、こんな時間が続いてほしいだけなのに。