「ねえ、知ってる?この県のお好み焼きってそばが入っているんだよ」
「そうなのか?知らなかった」
「そうなんだよ。何かすごく珍しいよね。だから一度食べてみたかったの」
「ああ、そうだな。せっかくここまで来たんだから食べたいものや見たいもの全部制覇したいよな」
「おおー。わかってるじゃん。全力でこの旅行を楽しもうよ!」
そう言って美咲は俺の背中をバンバン叩いた。痛えよ。そんなことを話しながら歩いていると例の雑居ビルに着いた。
建物を見ると外観は普通だった。けれど、中に入るとお好み焼きが鉄板の上で焼ける心地よい音。食欲をそそるソースの匂いが香っていた。そして何より注目すべきはお好み焼き屋が本当に密集していた。
ここに来るまでフロアごとにお好み焼き屋のテナントが入っているのだと思っていたのだけれども、そうではなかった。一つのフロアにオープンスペースでいくつものお好み焼き屋がお祭りの屋台のように多く並んでいたのだった。そんな賑やかな並びは見ているだけでもイベントのような楽しさがあった。
美咲とフロアをぐるりと一周して色んな店を見て回ってから適当な一軒の「洋ちゃん」と書かれた暖簾をくぐってみた。
「いらっしゃい!」
店主らしき頭に手ぬぐいを巻いた六十代ぐらいのおじさんが溌剌な声で出迎えてくれた。他に客はまだ居らず、俺らが一番乗りだったようだ。
テーブルの上に置かれたメニューを見ると、シンプルなものからたくさんの具材が入っているものまで目白押しだった。二人でどれにしようか迷ったけれど、せっかくだからということで贅沢に頼むことにした。
「すみません。デラックス洋ちゃん焼きに牡蠣をトッピングしたものを二つお願いします」
と、注文すると「あいよ!」とやはり元気な返事とともに年季の入った冷蔵庫から二人分の具材を取り出して目の前で焼き出した。熟練の手つきでイカやエビや豚肉や野菜を炒めている様子に釘付けになった。海鮮と野菜が炒められる香ばしさと目の前で調理される臨場感のある音が食欲を掻き立てた。
最初は鉄板の上に無造作にばらまかれた食材がパラパラと舞うような霰のようになっていき、そして一つの円となっていくのを見ているのは楽しかった。
「お待ち!」
店主は焼き上がった特大の牡蠣付きのお好み焼きを載せた皿を俺たちの前に置いた。
「いただきます」
二人で声を揃えて俺たちは食べ始めた。普段食べていたお好み焼きとは違う食感だ。外側はカリカリで香ばしくて、中はもちもちなそばで美味い。トッピングの牡蠣も大きく身が分厚い。食べてみると、牡蠣特有のあの苦みはほとんどなく純粋な旨味を感じることができた。正直、牡蠣は好きではなかったので牡蠣をその場のノリで注文したときは少し後悔したけれど、その予想は外れてくれて嬉しい方に転がってくれた。
「君たち、観光かい?」
二人でお好み焼きに夢中になっていると、店主が笑顔で話しかけて来た。
「はい。観光です」
「ここはたくさん観光するところもあるし美味しいものがあるからね」
「そうですね。このお好み焼きも美味しいです」
「おお、嬉しいこと言ってくれるね。そういえば、君たち高校生?」
「はい。そうです」
「若いねえ。羨ましいもんだ。君たちカップル?青春だねえ」
「えっ!」
思わず店主の「カップル」という言葉に声を上げてしまった。確かに男女がこうやって観光地でその土地の名物を食べに来てたら、そう見られてもしょうがないのはわかる。俺が「そうじゃありませんよ」と否定しようとしたところだった。
「はい!付き合ってるんですよ。今日は遠めのデートって感じです」
と、美咲が答えていた。ニヤニヤと俺たち二人を眺める店主。その笑顔に負けないくらいなぜか自信満々な笑顔を浮かべている美咲。絶句している俺。
「こんな可愛い娘が彼女なんて羨ましいね。お兄ちゃん」
「は、はは」
もう笑うしかないってこういうことなのか。自然な愛想笑いなのか不器用な作り笑顔かは自分でもわからない。
もう、目の前のお好み焼きが冷める前にがっついて食べてしおう。こんなに動揺してしまっていても美味いものは変わらず美味いものだった。
「そうなのか?知らなかった」
「そうなんだよ。何かすごく珍しいよね。だから一度食べてみたかったの」
「ああ、そうだな。せっかくここまで来たんだから食べたいものや見たいもの全部制覇したいよな」
「おおー。わかってるじゃん。全力でこの旅行を楽しもうよ!」
そう言って美咲は俺の背中をバンバン叩いた。痛えよ。そんなことを話しながら歩いていると例の雑居ビルに着いた。
建物を見ると外観は普通だった。けれど、中に入るとお好み焼きが鉄板の上で焼ける心地よい音。食欲をそそるソースの匂いが香っていた。そして何より注目すべきはお好み焼き屋が本当に密集していた。
ここに来るまでフロアごとにお好み焼き屋のテナントが入っているのだと思っていたのだけれども、そうではなかった。一つのフロアにオープンスペースでいくつものお好み焼き屋がお祭りの屋台のように多く並んでいたのだった。そんな賑やかな並びは見ているだけでもイベントのような楽しさがあった。
美咲とフロアをぐるりと一周して色んな店を見て回ってから適当な一軒の「洋ちゃん」と書かれた暖簾をくぐってみた。
「いらっしゃい!」
店主らしき頭に手ぬぐいを巻いた六十代ぐらいのおじさんが溌剌な声で出迎えてくれた。他に客はまだ居らず、俺らが一番乗りだったようだ。
テーブルの上に置かれたメニューを見ると、シンプルなものからたくさんの具材が入っているものまで目白押しだった。二人でどれにしようか迷ったけれど、せっかくだからということで贅沢に頼むことにした。
「すみません。デラックス洋ちゃん焼きに牡蠣をトッピングしたものを二つお願いします」
と、注文すると「あいよ!」とやはり元気な返事とともに年季の入った冷蔵庫から二人分の具材を取り出して目の前で焼き出した。熟練の手つきでイカやエビや豚肉や野菜を炒めている様子に釘付けになった。海鮮と野菜が炒められる香ばしさと目の前で調理される臨場感のある音が食欲を掻き立てた。
最初は鉄板の上に無造作にばらまかれた食材がパラパラと舞うような霰のようになっていき、そして一つの円となっていくのを見ているのは楽しかった。
「お待ち!」
店主は焼き上がった特大の牡蠣付きのお好み焼きを載せた皿を俺たちの前に置いた。
「いただきます」
二人で声を揃えて俺たちは食べ始めた。普段食べていたお好み焼きとは違う食感だ。外側はカリカリで香ばしくて、中はもちもちなそばで美味い。トッピングの牡蠣も大きく身が分厚い。食べてみると、牡蠣特有のあの苦みはほとんどなく純粋な旨味を感じることができた。正直、牡蠣は好きではなかったので牡蠣をその場のノリで注文したときは少し後悔したけれど、その予想は外れてくれて嬉しい方に転がってくれた。
「君たち、観光かい?」
二人でお好み焼きに夢中になっていると、店主が笑顔で話しかけて来た。
「はい。観光です」
「ここはたくさん観光するところもあるし美味しいものがあるからね」
「そうですね。このお好み焼きも美味しいです」
「おお、嬉しいこと言ってくれるね。そういえば、君たち高校生?」
「はい。そうです」
「若いねえ。羨ましいもんだ。君たちカップル?青春だねえ」
「えっ!」
思わず店主の「カップル」という言葉に声を上げてしまった。確かに男女がこうやって観光地でその土地の名物を食べに来てたら、そう見られてもしょうがないのはわかる。俺が「そうじゃありませんよ」と否定しようとしたところだった。
「はい!付き合ってるんですよ。今日は遠めのデートって感じです」
と、美咲が答えていた。ニヤニヤと俺たち二人を眺める店主。その笑顔に負けないくらいなぜか自信満々な笑顔を浮かべている美咲。絶句している俺。
「こんな可愛い娘が彼女なんて羨ましいね。お兄ちゃん」
「は、はは」
もう笑うしかないってこういうことなのか。自然な愛想笑いなのか不器用な作り笑顔かは自分でもわからない。
もう、目の前のお好み焼きが冷める前にがっついて食べてしおう。こんなに動揺してしまっていても美味いものは変わらず美味いものだった。