忠之から本を借りた次の日、俺はベッドから起き上がるととても怠かった。身体が熱いようだけれども震えるように寒くて頭がボーっとする。蝉の鳴き声がそんなボーっとした頭に響いて頭蓋の中で鐘を突かれたような頭痛がする。辛い。
体温を測ると三十八度だった。確かに昨日の夜に寒気を感じたが、まさか風邪を引いているとは思わず、ただ少し調子が悪いとしか思わなかった。最近、無理しすぎたかそれともクーラーの設定温度を低くしすぎたのだろうか。色んな原因になりそうなことが頭によぎるけれど頭が痛くてそれら一つひとつについて考えることができずに、ただただずっと横になっていることしかできなかった。
寒気がするのに真夏だからタオルケットしかない。布団を取り出さないと。布団は誰も使っていない一階の物置部屋のクローゼットの中だ。重い布団をこの身体で抱えて二階まで運ぶのはキツイだろうけど悪寒を放っておくわけにもいかない。重い身体を起こして、一階の物置部屋に着いたがその時点で息が切れた。熱ってこんなに辛かったっけと思いながらクローゼットの中を漁った。父さんの布団。秋穂の布団。座布団。抱き枕。余計なものを引っ張り出すも自分の布団が中々見つからなかった。そんな重いものを扱っているわけではないのに今の俺にとっては十分な重労働だった。
頭がズキズキと痛くなりながらもやっとの思いでなぜか一番奥にあった俺の布団を引っ張りだしたときにはもう限界だった。身体に力が入らなくなり、その場に倒れ込むように横になった。こんなところで寝ちゃだめだってわかっているのにもうすべてが怠い。頭の中を響かせていた喧しかった蝉の鳴き声がだんだんと遠くになっていった。
「こんなところで寝てちゃダメでしょ」
懐かしい声が聞こえた気がした。夢だと思ったが、その声の主は俺のことをよろめきながらも抱え上げようとした。ぼやけた視界の焦点が合うとそこにはスーツ姿の秋穂がいた。今日が研修から帰って来る日だったんだな。
ああ、そうだ。出発の日のことを謝らないと。熱で苦しいのにこういうことは律儀に覚えていた。秋穂に謝ろうとしたときだった。
「すごい熱だね。布団なら私が持って行ってあげるから、飛鳥は自分の部屋で寝てな」
「いや、でも」
「いいから!私が全てやっておくから。早く自分の部屋で寝てて」
そう強くまくし立てられ俺は自分の部屋に戻るしかなかった。そうして、ベッドの上で横たわっていると、秋穂が重そうに布団を運んできて俺の上にかけた。
「ほら、持って来たよ。うーん。夏風邪かなあ。しばらく安静にしときな」
「ありがとう…」
か細くそれだけ言うと力が抜けてそのまま再び眠ってしまった。次に起きたときは懐かしい匂いとともにだった。
「おかゆ作ったけど食べる?ここに置いておくね」
秋穂はそう言うと、茶碗を乗せたトレーを机の上に置いた。重い瞼でぼやけた視界には秋穂がこちらを心配そうに見つめているのがわかった。物置部屋では気が付かなかったが、その顔はひどくやつれているようだった。研修合宿でものすごく疲れているのだろう。それなのに、無理をしてこんなに世話をしてくれるなんて。
「ごめん」
ぼそりとそう呟くと秋穂は何を言っているのだろうかと不思議そうに首を傾げたが、すぐに納得のいったような顔をした。
「別に出発の日のことはもう気にしていないよ。私も言いすぎたよ」
そう言って秋穂は部屋を後にした。そうじゃないんだ。自分だって相当疲れているのに、何で秋穂はこんなに人のために無理ができるんだ。
もう何もしなくていい。そう言おうとしたが、秋穂は部屋を出て行ってしまっていた。
体温を測ると三十八度だった。確かに昨日の夜に寒気を感じたが、まさか風邪を引いているとは思わず、ただ少し調子が悪いとしか思わなかった。最近、無理しすぎたかそれともクーラーの設定温度を低くしすぎたのだろうか。色んな原因になりそうなことが頭によぎるけれど頭が痛くてそれら一つひとつについて考えることができずに、ただただずっと横になっていることしかできなかった。
寒気がするのに真夏だからタオルケットしかない。布団を取り出さないと。布団は誰も使っていない一階の物置部屋のクローゼットの中だ。重い布団をこの身体で抱えて二階まで運ぶのはキツイだろうけど悪寒を放っておくわけにもいかない。重い身体を起こして、一階の物置部屋に着いたがその時点で息が切れた。熱ってこんなに辛かったっけと思いながらクローゼットの中を漁った。父さんの布団。秋穂の布団。座布団。抱き枕。余計なものを引っ張り出すも自分の布団が中々見つからなかった。そんな重いものを扱っているわけではないのに今の俺にとっては十分な重労働だった。
頭がズキズキと痛くなりながらもやっとの思いでなぜか一番奥にあった俺の布団を引っ張りだしたときにはもう限界だった。身体に力が入らなくなり、その場に倒れ込むように横になった。こんなところで寝ちゃだめだってわかっているのにもうすべてが怠い。頭の中を響かせていた喧しかった蝉の鳴き声がだんだんと遠くになっていった。
「こんなところで寝てちゃダメでしょ」
懐かしい声が聞こえた気がした。夢だと思ったが、その声の主は俺のことをよろめきながらも抱え上げようとした。ぼやけた視界の焦点が合うとそこにはスーツ姿の秋穂がいた。今日が研修から帰って来る日だったんだな。
ああ、そうだ。出発の日のことを謝らないと。熱で苦しいのにこういうことは律儀に覚えていた。秋穂に謝ろうとしたときだった。
「すごい熱だね。布団なら私が持って行ってあげるから、飛鳥は自分の部屋で寝てな」
「いや、でも」
「いいから!私が全てやっておくから。早く自分の部屋で寝てて」
そう強くまくし立てられ俺は自分の部屋に戻るしかなかった。そうして、ベッドの上で横たわっていると、秋穂が重そうに布団を運んできて俺の上にかけた。
「ほら、持って来たよ。うーん。夏風邪かなあ。しばらく安静にしときな」
「ありがとう…」
か細くそれだけ言うと力が抜けてそのまま再び眠ってしまった。次に起きたときは懐かしい匂いとともにだった。
「おかゆ作ったけど食べる?ここに置いておくね」
秋穂はそう言うと、茶碗を乗せたトレーを机の上に置いた。重い瞼でぼやけた視界には秋穂がこちらを心配そうに見つめているのがわかった。物置部屋では気が付かなかったが、その顔はひどくやつれているようだった。研修合宿でものすごく疲れているのだろう。それなのに、無理をしてこんなに世話をしてくれるなんて。
「ごめん」
ぼそりとそう呟くと秋穂は何を言っているのだろうかと不思議そうに首を傾げたが、すぐに納得のいったような顔をした。
「別に出発の日のことはもう気にしていないよ。私も言いすぎたよ」
そう言って秋穂は部屋を後にした。そうじゃないんだ。自分だって相当疲れているのに、何で秋穂はこんなに人のために無理ができるんだ。
もう何もしなくていい。そう言おうとしたが、秋穂は部屋を出て行ってしまっていた。