はちみつ色の石でできた小さな民家が連なった小道が眼前に広がっている。白い雲が空一面に広がっていて、透き通った水の流れる小川が近くを流れている。朝も早いため人のまばらな田舎の村でリリーが元気よくツアーコンダクターのように右手を持ち上げて後ろに掲げる。

「じゃじゃーん。これがバイブリー名物のアーリントン・ロウです!」

 イギリスはコッヅウォルズ、バイブリーはガイドブックでも大きな写真付きで紹介されるほど有名な観光地。

 土曜日の今日、わたしたちは早朝ロンドンを出発して、この村へやってきた。
 時刻はまだ朝の十時前。田舎の歩道を歩く人の姿はまばらだ。

 スペインとは違い、日差しは若干弱弱しいけれど、郷愁を誘うのどかでほのぼのとした景色に癒される。

 特に、幼なじみに自分の黒歴史を暴露した後であればなおさら、来るものを拒みませんという包容力の塊のような田舎の光景は心に染みわたる。

「わたしコッヅウォルズ好きなんだ。可愛いよね。素朴で愛らしくてのどかで。まるでおとぎ話に迷い込んだようで。なんかさ、あのドアから妖精が出てきてもわたし納得できるもん」
「確かに。妖精とか小人とか住んでそう」

 リリーの楽しそうな声を聞いたら、わたしもそう思ってしまう。
 実際に住んでいるのは人間なのだけれど、全体的に小さなつくりの家々は妖精のために作られましたと言われても受け入れてしまいそうなくらい、どこか浮世離れている。

 昨日バルセロナからロンドンに到着をした翌土曜日、わたしはリリーと一緒にコッヅウォルズの村々を回っている。

 ちなみに車を出してくれたのはリリーの彼氏のダニエルだ。
 リリーは学生でダニエルは会社員。貴重な土日のうち一日をわたしのために費やしてくれて、本当にありがたい。

 コッヅウォルズの村々を回るには公共交通機関を使うよりも車の方が圧倒的に便利とのこと。
 リリーは手持ちの一眼レフカメラで愛らしい村の景色を写真に収めていく。黒髪のツインテールがぴょんぴょん元気に揺れている。
 わたしたちはコルン川沿いに建つホテルやマスの養殖場、それから小さな教会などを回って車に戻った。

 ダニエルの運転に身を任せて窓の外に視線を向けると、なだらかな丘陵が眼前に広がる。ドイツにいるときも思ったけれど、ヨーロッパは全体的に雲がとても近いように感じる。その下に広がる大地は草色で、白い点がいくつも散らばっている。

 たくさんの羊たちがのんびりと草食んでいるのを眺めていると、わたしは今イギリスにいるんだなあ、と深く実感した。

 次に到着した町はバーフォード。駐車場に停めた車から降りたわたしはダニエルに「運転してくれてありがとう」と伝えた。

 彼は特に表情を変えることなく「どういたしまして」と答えた。少し素っ気ない口調なのだがこれがダニエルの通常運転だと昨日の時点でリリーから聞いている。

 彼は現在二十八歳で茶色の髪に茶色の瞳をした男性だ。リリーとは同じフラットでルームシェアをしている。
 ということはリリーと同じフラットの空き部屋に間借りすることになったわたしともフラットメイトということになる。