スペインといえばタパスだよね、ということでオリヴィアがお勧めのお店を案内してくれた。
さすがは現地在住だ。王宮見学のあと、入り組んだ路地を迷いのない足取りで進んで、こじゃれたバルへ連れて来てくれた。
昼間からお酒を飲める贅沢が最高だ。
各人、サングリアやワインの入ったグラスで乾杯。
運ばれてきた小皿の上にはおなじみのスペイン料理の数々。薄くスライドされた生ハムは絶対に外せないし、アヒージョは頼まないと始まらない。スペイン風コロッケも魚の身が練り込まれていてとても美味しい。
四人もいるから、オーダーする量も多くて、テーブルの上がにぎやかだ。
「んん~、美味しいっ」
「よかった。ここ、お勧めなの」
心からの言葉を告げるとオリヴィアが破顔した。同僚とよく来るとのことだ。
わたしはオリヴィアが進める料理を順番に食べていく。生ハムは口に入れると蕩けるし、エビはぷりっぷり。観光の疲れも吹き飛ぶほどにどれも美味しい。
「スペイン料理はなんでも美味しいのよ」
オリヴィアが胸を張る。この地に住んで長いから、愛着もあるのだろう。
すると、エミールがここぞとばかりに口を挟む。
「もちろん、ドイツのソーセージだって美味しいよね? サーヤ」
「え、うん。ソーセージも美味しかった」
わたしが頷くと、エミールがどうだ、と言わんばかりに眩しい笑顔を作った。
その後、話題は必然的にわたしたちのこれまでの旅行についてのものになり、駿人さんと二人で訪れた国と観光名所を羅列していく。
「たくさんの伝統料理を食べることが出来て、とても楽しかった」
そうわたしが締めくくると、エミールが「僕は日本料理も好きだよ。週に一度はジャパニーズレストランに行くくらい」と付け足した。
海外で日本食が人気だと聞いていたけれど、まさかこんな身近にファンがいたとは驚きだった。
「最初はハヤトの付き添いで行ったんだけどね。スシや天ぷら以外にもたくさんの種類があって、奥が深いよね。カレーとか唐揚げとか」
果たしてカレーは日本食なのだろうか。
「あら、わたしも日本食は好きよ。ヘルシーだし」
それも何かで聞いたことがある。海外では日本食はヘルシーな料理として有名なのだそうだ。
「カツカレー美味しいわよね」
「……」
それは絶対にヘルシーじゃないと思う。
「ええと、確かにスシはヘルシーかな?」
「そうそう、スシロール美味しいわよね」
ま、まあカツカレーよりはカロリー少なそうだ。
その後話題は日本食の作り方になって、わたしは四苦八苦しながら料理の説明を英語で行った。
もっと料理の勉強しておけばよかったという心の悲鳴は内緒だ。
別に、駿人さんに聞かれているからとか、そういうことではない。
異文化コミュニケーション、大事。それだけだ。
* * *
ランチの後はプエルタ・デル・ソル周辺を周ることにした。
明日は月曜日で、エミールは今日の夜の便でドイツへ帰国する。といっても二時間半くらいのフライトだから本当にヨーロッパは国同士が近い。
「でも、いいの? せっかくの週末デートなのに、わたしたちと一緒で」
人で賑わう広場周辺を冷やかしたわたしたちは、旧市街のカフェで休憩中だ。
「もちろん!」
オリヴィアはにこりと微笑んだ。
スペインといえばチュロス。ホッとチョコレートと一緒に供される名物スイーツを食べないと、とオリヴィアに激推しされて連れてこられた。
塩味のチュロスをホッとチョコレートに浸して食べるのだけれど、揚げたてだからさっくさくでとても美味しい。
チョコレートはそこまで甘すぎず、悪魔のような組み合わせに口が止まらない。
これは絶対に体重計に乗ったら駄目なやつだ……。
ダイエットは日本に帰ってからだな、うん。
「それで、ハヤトとは恋人同士なんでしょう?」
オリヴィアが身を乗り出してきた。
「んぐっ」
爆弾発言に一瞬むせそうになる。
タイル張りのどこかレトロな店内はそれなりに賑わっていて、四人で座れる座席がなかった。わたしたちの隣の隣のテーブル席に駿人さんたちが座っている。
あちらもこちらと同様、話をしながらチュロスを頬張っている。
駿人さん、絶対に喜んでいるだろうなあ。エミールも甘いものはいけるらしく、もしゃもしゃと食べ進めている。
「ただの友だちだって」
「本当に?」
興味を隠しきれない声色に、リリーと同じものを見つけてしまう。
やはり、国籍は違えど恋バナというものに女子は惹かれてしまうらしい。
わたしはオリヴィアの問いに勢いよく頷いた。
「うーん、そっかあ。まあ、友だち同士で旅行する子たちもいるもんねえ」
一度否定すると、オリヴィアはあっけないほどに納得した。
もっと突っ込まれるかと思ったんだけど、まあいいか。
「それに、わたしたち、住んでいるところがとても離れているし」
「日本とドイツだから?」
「うん」
さすがは現地在住だ。王宮見学のあと、入り組んだ路地を迷いのない足取りで進んで、こじゃれたバルへ連れて来てくれた。
昼間からお酒を飲める贅沢が最高だ。
各人、サングリアやワインの入ったグラスで乾杯。
運ばれてきた小皿の上にはおなじみのスペイン料理の数々。薄くスライドされた生ハムは絶対に外せないし、アヒージョは頼まないと始まらない。スペイン風コロッケも魚の身が練り込まれていてとても美味しい。
四人もいるから、オーダーする量も多くて、テーブルの上がにぎやかだ。
「んん~、美味しいっ」
「よかった。ここ、お勧めなの」
心からの言葉を告げるとオリヴィアが破顔した。同僚とよく来るとのことだ。
わたしはオリヴィアが進める料理を順番に食べていく。生ハムは口に入れると蕩けるし、エビはぷりっぷり。観光の疲れも吹き飛ぶほどにどれも美味しい。
「スペイン料理はなんでも美味しいのよ」
オリヴィアが胸を張る。この地に住んで長いから、愛着もあるのだろう。
すると、エミールがここぞとばかりに口を挟む。
「もちろん、ドイツのソーセージだって美味しいよね? サーヤ」
「え、うん。ソーセージも美味しかった」
わたしが頷くと、エミールがどうだ、と言わんばかりに眩しい笑顔を作った。
その後、話題は必然的にわたしたちのこれまでの旅行についてのものになり、駿人さんと二人で訪れた国と観光名所を羅列していく。
「たくさんの伝統料理を食べることが出来て、とても楽しかった」
そうわたしが締めくくると、エミールが「僕は日本料理も好きだよ。週に一度はジャパニーズレストランに行くくらい」と付け足した。
海外で日本食が人気だと聞いていたけれど、まさかこんな身近にファンがいたとは驚きだった。
「最初はハヤトの付き添いで行ったんだけどね。スシや天ぷら以外にもたくさんの種類があって、奥が深いよね。カレーとか唐揚げとか」
果たしてカレーは日本食なのだろうか。
「あら、わたしも日本食は好きよ。ヘルシーだし」
それも何かで聞いたことがある。海外では日本食はヘルシーな料理として有名なのだそうだ。
「カツカレー美味しいわよね」
「……」
それは絶対にヘルシーじゃないと思う。
「ええと、確かにスシはヘルシーかな?」
「そうそう、スシロール美味しいわよね」
ま、まあカツカレーよりはカロリー少なそうだ。
その後話題は日本食の作り方になって、わたしは四苦八苦しながら料理の説明を英語で行った。
もっと料理の勉強しておけばよかったという心の悲鳴は内緒だ。
別に、駿人さんに聞かれているからとか、そういうことではない。
異文化コミュニケーション、大事。それだけだ。
* * *
ランチの後はプエルタ・デル・ソル周辺を周ることにした。
明日は月曜日で、エミールは今日の夜の便でドイツへ帰国する。といっても二時間半くらいのフライトだから本当にヨーロッパは国同士が近い。
「でも、いいの? せっかくの週末デートなのに、わたしたちと一緒で」
人で賑わう広場周辺を冷やかしたわたしたちは、旧市街のカフェで休憩中だ。
「もちろん!」
オリヴィアはにこりと微笑んだ。
スペインといえばチュロス。ホッとチョコレートと一緒に供される名物スイーツを食べないと、とオリヴィアに激推しされて連れてこられた。
塩味のチュロスをホッとチョコレートに浸して食べるのだけれど、揚げたてだからさっくさくでとても美味しい。
チョコレートはそこまで甘すぎず、悪魔のような組み合わせに口が止まらない。
これは絶対に体重計に乗ったら駄目なやつだ……。
ダイエットは日本に帰ってからだな、うん。
「それで、ハヤトとは恋人同士なんでしょう?」
オリヴィアが身を乗り出してきた。
「んぐっ」
爆弾発言に一瞬むせそうになる。
タイル張りのどこかレトロな店内はそれなりに賑わっていて、四人で座れる座席がなかった。わたしたちの隣の隣のテーブル席に駿人さんたちが座っている。
あちらもこちらと同様、話をしながらチュロスを頬張っている。
駿人さん、絶対に喜んでいるだろうなあ。エミールも甘いものはいけるらしく、もしゃもしゃと食べ進めている。
「ただの友だちだって」
「本当に?」
興味を隠しきれない声色に、リリーと同じものを見つけてしまう。
やはり、国籍は違えど恋バナというものに女子は惹かれてしまうらしい。
わたしはオリヴィアの問いに勢いよく頷いた。
「うーん、そっかあ。まあ、友だち同士で旅行する子たちもいるもんねえ」
一度否定すると、オリヴィアはあっけないほどに納得した。
もっと突っ込まれるかと思ったんだけど、まあいいか。
「それに、わたしたち、住んでいるところがとても離れているし」
「日本とドイツだから?」
「うん」