「ティラミス持って来てもらう?」
「うん! 楽しみ!」
「トモー、ティラミスよろしく〜」
そう声を掛けると「オッケー」と返って来る。
少しして知朗が、ガラスのプレートに取り分けたティラミスとホットティを持って来た。ティラミスは冷やしたあと、茶こしを使って純ココアパウダーを表面に振り掛けて完成だ。
「これ紅茶?」
「うん。ティラミスにはコーヒーが合うんやけど、合う紅茶もあるんよ。ウバって言う茶葉やねん」
「ウバ」
「うん。他の紅茶より少し味が重めやねぇ。でもそれがティラミスに合うねん。お砂糖とミルクはお好みで入れてね。夏子ちゃんいつもアイスミルクティ飲んでるから紅茶が好きなんやと思って」
「うん! もともと飲み始めたのはお洒落な感じがしたからなんだけど、今は1番好きな飲み物かも。でもコーヒーも飲んでみたいなぁ」
「じゃあ煎れて来るか?」
知朗が言うと、夏子ちゃんは「良いの?」とぱっと目を見開いた。
「おう。ちょっと待ってろな」
知朗は空いたガレットの皿を下げ箱に放り込み、テーブルでコーヒーの準備をする。サーバにドリッパーを乗せて、フィルタをセットしコーヒー豆を入れ、そっと湯を回し入れて行く。
「じゃあ僕らはティラミス食べようか」
「良いの? コーヒーまだなのに」
「ええのええの。メインは夏子ちゃんにティラミスを食べてもらうことやからねぇ」
「ありがとう! じゃあ」
夏子ちゃんは添えられていたスプーンを持ち、滑らかなティラミスをすくい上げる。わくわくと大きく口を開けてそこに放り込むと、ふにゃりと相貌を崩して口角を上げた。
「美味しいね……! ティラミスってこんなに美味しいんだ……! マ、マ、なんとかってチーズの甘いところとコーヒーが凄く合うんだ……! あ、でもこの上の粉はココアなんだっけ」
夏子ちゃんに美味しいと言ってもらえて、謙太は心底ほっとする。
1番食べたがっていたティラミスが、好みで無かったらあまりにも残念だった。何せ生前は食事制限で、チーズそのものがほとんど食べられなかったのだから。なので本当に安堵する。
「そう、純ココア。お砂糖入ってへんから、これも甘いマスカルポーネクリームと合うと思うねん」
「うん! 凄っごく美味しいね! 巧く感想が言えなくてごめんね」
「美味しいって言ってくれるんで充分やわぁ。ほんまに良かったわぁ。紅茶も飲んでみてねぇ」
「うん!」
夏子ちゃんはほかほかと湯気を上げるティカップを取るとずずっと啜る。熱いのでそう多くは飲めないだろう。
「……お砂糖入れないと飲めない。渋いよー」
夏子ちゃんは言って寄せた目を閉じる。謙太は「ははっ」と笑ってシュガーポットを開けた。
「どれぐらい入れる? 1杯でええかなぁ」
「うん。ありがとう」
謙太が砂糖を入れると夏子ちゃんがスプーンで混ぜ、あらためてこくりと傾ける。その間に謙太は自分のティカップに砂糖とミルクをたっぷり入れた。
「うん、美味しい! やっぱり私には大人の飲み物はまだまだなんだなー」
「大人でも砂糖無しで飲まれへん人もおるんやから気にすること無いでぇ。僕みたいにね〜。僕なんてミルクも入れてるんやからねぇ」
「そっか、そうだね。でもさっき謙太さんが言ってたの解る。ティラミスには確かに、えっと、何て言ったら良いのかな、紅茶みたいなさっぱりした飲み物より、強いというかそう言う味の飲み物が合うのかも。これは紅茶の中でも強い方なんだよね」
「そうやで。それでもやっぱりティラミスには負けてまうかなぁ」
「私は合うと思うよ。でもティラミスにコーヒーとココアが入ってるんだから、同じ飲み物が合うって言うの解る。トモさんがコーヒー煎れてくれるの楽しみ」
「おう、お待ちかねのコーヒーだ」
ナイスタイミングで知朗がコーヒーを持って来た。膝を付いてふたりの前にそれぞれ置いてくれる。
「無理してブラックで飲む必要無ぇからな。好みで砂糖もミルクもたっぷり入れてやれ」
「良いのかな」
「良い良い。俺はいつもブラックで飲むけど、謙太は砂糖もミルクもたっぷり入れるしな」
「そうだよね〜」
謙太は言いながらまたシュガーポットを開ける。
「お砂糖もだけど、ミルク多い方が飲みやすいかもねぇ。お砂糖まずは1杯だけ入れてみようか。お砂糖だけのが好みやったらそれで飲んだらええんやしねぇ」
「そうだね。じゃあ1杯だけ入れてみるね」
「うん」
謙太が夏子ちゃんのコーヒーに1杯、自分のコーヒーに2杯とミルクをとぽりと入れた。
「謙太さんお砂糖2杯も入れるんだ」
「うん。いつもやでぇ」
「コーヒーってそんなに苦い……」
夏子ちゃんが敬遠する様な素振りを見せるので、謙太も知朗も慌てて「いやいやいや」と手を振る。
「僕が特に甘いもん好きなだけやからね。まずはお砂糖1杯で飲んでみて」
「そ、そうだね」
夏子ちゃんはティラミスをひと口食べ、続けてやや緊張の面持ちでそっとコーヒーカップに口を付ける。そして「あ」と声を上げた。
「私これ好きかも。甘さもちょうど良いね! これ本当にティラミスに合う!」
「そりゃあ良かった。じゃあ後はゆっくりしてくれ。砂糖とミルクは邪魔になるから下げるな」
そして知朗がその場を離れると、夏子ちゃんがコーヒーカップを手にしたまま「ふふ」と嬉しそうに微笑む。
「デートってこんな感じなのかな。謙太さんとたくさんお話できて楽しいけど」
「そうやねぇ。結婚を約束しとったらそんな話もするんやろうけど、付き合うてるだけやったら他愛も無い話が多いと思うなぁ。あんなことがあった、こんなことがあったってねぇ。それこそこんな風にカフェでご飯食べて、スイーツ食べてお茶飲んでって、王道のデートコースだよねぇ」
「遊園地とか動物園も王道なんだよね。えっと、テーマパークとかも。他にはどんなのがあるのかな」
「映画を見たり、後は女の子のお買い物のお付き合いもあるかなぁ」
「女の子のお買い物?」
「そう。服とか靴とかバッグとかねぇ。女の子はいろんなお店でたくさん商品を見て決める人が多いからねぇ。男は待ちぼうけ食らって荷物持ちやねぇ。で、たまには男が女の子に買ってあげたりすんねん」
「男の人ってそんなこともしてくれるの?」
「皆がそうじゃ無いけどねぇ。でもお金をたくさん持ってる男の人はそうしてあげる人も多いと思うなぁ。まぁ、お姫さま扱いやんねぇ」
「お姫さま! 良いなぁお姫さま。憧れるなー!」
「そうなん?」
夏子ちゃんは両手を組んでうっとりと目を細めた。
「綺麗なドレスを着て、美味しいもの食べられるんでしょう?」
「あ〜なるほどねぇ」
謙太は男なのでお姫さまと言うものに疎いのだが、華やかなイメージではある。
「少女漫画にあったん?」
「うん! きらきらしてて綺麗だったー。パーティで王子さまと踊ったりするの。後は小さいころの絵本。絵本のお姫さまは楽しいことばっかりじゃ無かったけど、最後には必ず幸せになってたでしょう?」
「そうやねぇ」
「私は病気ばっかりでしんどかったけど、ママがずっと一緒にいてくれたからか不幸とは思わなかったんだ。でも幸せっていうものを感じる余裕も無かったかなーって。もちろん良いことだってあったんだけどね」
「それはおかしいことや無いと思うでぇ。病気は大人かてしんどいもんやもん。自分は不幸やて思ってもうても不思議や無いもんねぇ。でもそう思わんかった夏子ちゃんは凄いで。ほんまによう頑張ったんやねぇ」
謙太が優しく言うと、夏子ちゃんは一瞬きょとんとした表情になり、次にはくしゃりと顔を歪めた。
「私頑張れたのかなぁ」
「うん。頑張ったよ」
「そっかぁ」
夏子ちゃんは泣き笑いの様な表情になると「へへ」と照れた様に笑う。
「もう死んで何年も、何10年もだよね? なるのに、そんなこと言ってもらえたら嬉しくなっちゃう。ガレットもティラミスもご褒美なんだって思っちゃうよ」
「生まれ変わった次の人生の夏子ちゃんは、健康でなんでもできるようになるでぇ。絶対」
「うん! 私も走ったりボール投げたり蹴ったりしたいもんね!」
「お姫さまは走ったりせえへんと思うなぁ」
「あはは、本当だ」
「夏子ちゃん実はお転婆なんかも知れへんねぇ」
「お転婆なお姫さまもきっといるよー」
「確かに少女漫画にはいそうやねぇ」
「でね、お姫さまは王子さまと結ばれてチュウとかしちゃうんだよね」
「ロマンチックやねぇ」
少女漫画をたくさん読んでいた夏子ちゃんは、なるほどロマンチストなのかも知れない。
お姫さまや少女が謳歌する生活を夢見てもなんら不思議では無い。それは生命の光が淡かった夏子ちゃんにとって、叶えるのが難しい未来だったのだから。
「そういうのもね、羨ましかったなー」
そう言って夏子ちゃんは明るく笑う。なんともいじらしいでは無いか。だからと言う訳では無いのだが。
謙太はそっと夏子ちゃんの手を取る。
「謙太さん?」
首を傾げる夏子ちゃんの手の甲に、謙太は優しく唇を落とした。
「け、謙太さん!?」
夏子ちゃんは途端に顔を真っ赤にして腰を浮かし掛ける。開いた口がぱくぱくと動いた。謙太はにっこりと笑う。
「お姫さまみたいやろ?」
すると夏子ちゃんは一瞬ぽかんと呆気に取られ、次には笑い出した。
「あ、あはははは! 本当だ、お姫さまみたーい! きゃー!」
そう言って今度は嬉しそうだ。
「きゃー! きゃー! 素敵ー! 嬉しい!」
そして謙太と夏子ちゃんは会話を弾ませながら、ティラミスとお茶を楽しんだ。
「うん! 楽しみ!」
「トモー、ティラミスよろしく〜」
そう声を掛けると「オッケー」と返って来る。
少しして知朗が、ガラスのプレートに取り分けたティラミスとホットティを持って来た。ティラミスは冷やしたあと、茶こしを使って純ココアパウダーを表面に振り掛けて完成だ。
「これ紅茶?」
「うん。ティラミスにはコーヒーが合うんやけど、合う紅茶もあるんよ。ウバって言う茶葉やねん」
「ウバ」
「うん。他の紅茶より少し味が重めやねぇ。でもそれがティラミスに合うねん。お砂糖とミルクはお好みで入れてね。夏子ちゃんいつもアイスミルクティ飲んでるから紅茶が好きなんやと思って」
「うん! もともと飲み始めたのはお洒落な感じがしたからなんだけど、今は1番好きな飲み物かも。でもコーヒーも飲んでみたいなぁ」
「じゃあ煎れて来るか?」
知朗が言うと、夏子ちゃんは「良いの?」とぱっと目を見開いた。
「おう。ちょっと待ってろな」
知朗は空いたガレットの皿を下げ箱に放り込み、テーブルでコーヒーの準備をする。サーバにドリッパーを乗せて、フィルタをセットしコーヒー豆を入れ、そっと湯を回し入れて行く。
「じゃあ僕らはティラミス食べようか」
「良いの? コーヒーまだなのに」
「ええのええの。メインは夏子ちゃんにティラミスを食べてもらうことやからねぇ」
「ありがとう! じゃあ」
夏子ちゃんは添えられていたスプーンを持ち、滑らかなティラミスをすくい上げる。わくわくと大きく口を開けてそこに放り込むと、ふにゃりと相貌を崩して口角を上げた。
「美味しいね……! ティラミスってこんなに美味しいんだ……! マ、マ、なんとかってチーズの甘いところとコーヒーが凄く合うんだ……! あ、でもこの上の粉はココアなんだっけ」
夏子ちゃんに美味しいと言ってもらえて、謙太は心底ほっとする。
1番食べたがっていたティラミスが、好みで無かったらあまりにも残念だった。何せ生前は食事制限で、チーズそのものがほとんど食べられなかったのだから。なので本当に安堵する。
「そう、純ココア。お砂糖入ってへんから、これも甘いマスカルポーネクリームと合うと思うねん」
「うん! 凄っごく美味しいね! 巧く感想が言えなくてごめんね」
「美味しいって言ってくれるんで充分やわぁ。ほんまに良かったわぁ。紅茶も飲んでみてねぇ」
「うん!」
夏子ちゃんはほかほかと湯気を上げるティカップを取るとずずっと啜る。熱いのでそう多くは飲めないだろう。
「……お砂糖入れないと飲めない。渋いよー」
夏子ちゃんは言って寄せた目を閉じる。謙太は「ははっ」と笑ってシュガーポットを開けた。
「どれぐらい入れる? 1杯でええかなぁ」
「うん。ありがとう」
謙太が砂糖を入れると夏子ちゃんがスプーンで混ぜ、あらためてこくりと傾ける。その間に謙太は自分のティカップに砂糖とミルクをたっぷり入れた。
「うん、美味しい! やっぱり私には大人の飲み物はまだまだなんだなー」
「大人でも砂糖無しで飲まれへん人もおるんやから気にすること無いでぇ。僕みたいにね〜。僕なんてミルクも入れてるんやからねぇ」
「そっか、そうだね。でもさっき謙太さんが言ってたの解る。ティラミスには確かに、えっと、何て言ったら良いのかな、紅茶みたいなさっぱりした飲み物より、強いというかそう言う味の飲み物が合うのかも。これは紅茶の中でも強い方なんだよね」
「そうやで。それでもやっぱりティラミスには負けてまうかなぁ」
「私は合うと思うよ。でもティラミスにコーヒーとココアが入ってるんだから、同じ飲み物が合うって言うの解る。トモさんがコーヒー煎れてくれるの楽しみ」
「おう、お待ちかねのコーヒーだ」
ナイスタイミングで知朗がコーヒーを持って来た。膝を付いてふたりの前にそれぞれ置いてくれる。
「無理してブラックで飲む必要無ぇからな。好みで砂糖もミルクもたっぷり入れてやれ」
「良いのかな」
「良い良い。俺はいつもブラックで飲むけど、謙太は砂糖もミルクもたっぷり入れるしな」
「そうだよね〜」
謙太は言いながらまたシュガーポットを開ける。
「お砂糖もだけど、ミルク多い方が飲みやすいかもねぇ。お砂糖まずは1杯だけ入れてみようか。お砂糖だけのが好みやったらそれで飲んだらええんやしねぇ」
「そうだね。じゃあ1杯だけ入れてみるね」
「うん」
謙太が夏子ちゃんのコーヒーに1杯、自分のコーヒーに2杯とミルクをとぽりと入れた。
「謙太さんお砂糖2杯も入れるんだ」
「うん。いつもやでぇ」
「コーヒーってそんなに苦い……」
夏子ちゃんが敬遠する様な素振りを見せるので、謙太も知朗も慌てて「いやいやいや」と手を振る。
「僕が特に甘いもん好きなだけやからね。まずはお砂糖1杯で飲んでみて」
「そ、そうだね」
夏子ちゃんはティラミスをひと口食べ、続けてやや緊張の面持ちでそっとコーヒーカップに口を付ける。そして「あ」と声を上げた。
「私これ好きかも。甘さもちょうど良いね! これ本当にティラミスに合う!」
「そりゃあ良かった。じゃあ後はゆっくりしてくれ。砂糖とミルクは邪魔になるから下げるな」
そして知朗がその場を離れると、夏子ちゃんがコーヒーカップを手にしたまま「ふふ」と嬉しそうに微笑む。
「デートってこんな感じなのかな。謙太さんとたくさんお話できて楽しいけど」
「そうやねぇ。結婚を約束しとったらそんな話もするんやろうけど、付き合うてるだけやったら他愛も無い話が多いと思うなぁ。あんなことがあった、こんなことがあったってねぇ。それこそこんな風にカフェでご飯食べて、スイーツ食べてお茶飲んでって、王道のデートコースだよねぇ」
「遊園地とか動物園も王道なんだよね。えっと、テーマパークとかも。他にはどんなのがあるのかな」
「映画を見たり、後は女の子のお買い物のお付き合いもあるかなぁ」
「女の子のお買い物?」
「そう。服とか靴とかバッグとかねぇ。女の子はいろんなお店でたくさん商品を見て決める人が多いからねぇ。男は待ちぼうけ食らって荷物持ちやねぇ。で、たまには男が女の子に買ってあげたりすんねん」
「男の人ってそんなこともしてくれるの?」
「皆がそうじゃ無いけどねぇ。でもお金をたくさん持ってる男の人はそうしてあげる人も多いと思うなぁ。まぁ、お姫さま扱いやんねぇ」
「お姫さま! 良いなぁお姫さま。憧れるなー!」
「そうなん?」
夏子ちゃんは両手を組んでうっとりと目を細めた。
「綺麗なドレスを着て、美味しいもの食べられるんでしょう?」
「あ〜なるほどねぇ」
謙太は男なのでお姫さまと言うものに疎いのだが、華やかなイメージではある。
「少女漫画にあったん?」
「うん! きらきらしてて綺麗だったー。パーティで王子さまと踊ったりするの。後は小さいころの絵本。絵本のお姫さまは楽しいことばっかりじゃ無かったけど、最後には必ず幸せになってたでしょう?」
「そうやねぇ」
「私は病気ばっかりでしんどかったけど、ママがずっと一緒にいてくれたからか不幸とは思わなかったんだ。でも幸せっていうものを感じる余裕も無かったかなーって。もちろん良いことだってあったんだけどね」
「それはおかしいことや無いと思うでぇ。病気は大人かてしんどいもんやもん。自分は不幸やて思ってもうても不思議や無いもんねぇ。でもそう思わんかった夏子ちゃんは凄いで。ほんまによう頑張ったんやねぇ」
謙太が優しく言うと、夏子ちゃんは一瞬きょとんとした表情になり、次にはくしゃりと顔を歪めた。
「私頑張れたのかなぁ」
「うん。頑張ったよ」
「そっかぁ」
夏子ちゃんは泣き笑いの様な表情になると「へへ」と照れた様に笑う。
「もう死んで何年も、何10年もだよね? なるのに、そんなこと言ってもらえたら嬉しくなっちゃう。ガレットもティラミスもご褒美なんだって思っちゃうよ」
「生まれ変わった次の人生の夏子ちゃんは、健康でなんでもできるようになるでぇ。絶対」
「うん! 私も走ったりボール投げたり蹴ったりしたいもんね!」
「お姫さまは走ったりせえへんと思うなぁ」
「あはは、本当だ」
「夏子ちゃん実はお転婆なんかも知れへんねぇ」
「お転婆なお姫さまもきっといるよー」
「確かに少女漫画にはいそうやねぇ」
「でね、お姫さまは王子さまと結ばれてチュウとかしちゃうんだよね」
「ロマンチックやねぇ」
少女漫画をたくさん読んでいた夏子ちゃんは、なるほどロマンチストなのかも知れない。
お姫さまや少女が謳歌する生活を夢見てもなんら不思議では無い。それは生命の光が淡かった夏子ちゃんにとって、叶えるのが難しい未来だったのだから。
「そういうのもね、羨ましかったなー」
そう言って夏子ちゃんは明るく笑う。なんともいじらしいでは無いか。だからと言う訳では無いのだが。
謙太はそっと夏子ちゃんの手を取る。
「謙太さん?」
首を傾げる夏子ちゃんの手の甲に、謙太は優しく唇を落とした。
「け、謙太さん!?」
夏子ちゃんは途端に顔を真っ赤にして腰を浮かし掛ける。開いた口がぱくぱくと動いた。謙太はにっこりと笑う。
「お姫さまみたいやろ?」
すると夏子ちゃんは一瞬ぽかんと呆気に取られ、次には笑い出した。
「あ、あはははは! 本当だ、お姫さまみたーい! きゃー!」
そう言って今度は嬉しそうだ。
「きゃー! きゃー! 素敵ー! 嬉しい!」
そして謙太と夏子ちゃんは会話を弾ませながら、ティラミスとお茶を楽しんだ。