あなたの死に花束を。

「……私も甘党だとよかったのに」と呟くが、彼女は気にした様子もなしにグイっとコーヒーを煽る。その姿がやけに逆光で輝いて見えた。
「嘆いても仕方ないことでしょ。諦めなさい」
 呟く声は、どこかしっとりと泣いているようだった。これ以上続けられそうにない言葉に、私はまたため息を吐いて、やっと諦める。
「……まあ、そうですけどね」
 このやり取りは、別に嫌いじゃなかった。だってこれは、綾芽さんなりの励まし方だったから。
事故の前に菖蒲がよく言っていた。家族の話になると専ら、自慢するように。
『姉さんはね、ちょっと……かなり、素直じゃないんだよ。励ますときだって悪者になってさ。邪道だけど、でも秘められた思いは、あったかいものだから』
 そういって自慢げに笑う。柔い空気が一瞬だけ変わるようだった。
 彼の顔が、まざまざと蘇ってきて、私はそっと目線を花に向けた。あの時も微かに彼を取り巻いていたのは、優しい花の香りだったのだ。
 店主とここを訪れていなかったら、きっと忘れたままだった。
 その点に関しては店主のおかげかもしれない。だが、素直に認めるにはちょっとだけ悔しくもあって、軽く唇をかんだ。
「……そういえば」
 徐に口を開く。綾芽さんが「ん?」と声を漏らし、一拍置いて、彼女に目をやった。
「あれから宵花屋の店主、ここに来てますか?」
 綾芽さんは、うーん、と軽く唸ってから、「来てるんじゃない?」といった。
 花は毎週変えられている。受付の人も、時折様子を見に来る看護師さんも、あのイケメンな人ですか? 先日見ましたよ~、と言っていたらしい。
「会ったのは、あんたと来たときが最後だから。それ以降はわからないけど」
 そうですか、と返せば、不思議そうに首を傾げられる。ただちょっと気になって、と返事は誤魔化した。
 コーヒー牛乳は終始甘さを訴えていた。

 病院を後にし、その足で橘さんの家に向かった。
 寒さに凍り付きそうな道を早歩きで過ぎていく。木々に巻き付けられた申し訳程度の照明が、微かにちらつき出す。もう日が暮れかけていた。
はあ、と白い息を吐きながら住宅街に足を踏み込むと、そう遠くないところにある橘さんの家の前に車が止まっていた。瞬間ドクン、と心臓が跳ねた。
 ――配達?