ポロっと口から飛び出す。そこにいない、その人が頭に浮かんだ。意地悪く微笑んで、こちらを観察するような目。キラキラと、花みたいに無邪気だった、揺れる感情の色。
一つ、瞬きをする。同時にはらり、とナデシコの小さな花びらが不規則に舞って落ちる。美しい、マゼンタ色のそれが、テーブルを離れ、私の前をひらひらひらひら。音もなく床に落ちた。
以前に飾っていたものより、なぜか大きく見えた。
不思議に思って見つめていると、カラカラ、と病室の扉が開いた。反射的に目をやれば、綾芽さんと目が合う。
「……コーヒー、飲めたよね」
後ろ手で扉を閉め、缶コーヒーを私に差し出す。「……ありがとうございます」と返すと彼女は少し、頬を赤らめた。……可愛らしい人だな、と笑った。
「菖蒲は、変わりないか」
私とは反対側に回って、窓際にもたれる。「せっかく彼女が手を握ってくれてるのに」なんてからかいながら、プシュッと音を立てて缶を開けて口をつけた。
ゆっくりと自分の視線を手元に向ける。ずっと握りっぱなしで、やっぱり少し血の気が引いていた。彼の手も血行が悪くなっては困る。そっと、手を放して、受け取ったコーヒーに口をつけた。
「……甘っ」
思わずコーヒーを二度見すれば、そこにはコーヒー牛乳なんて書かれている。じろり、と買ってきた彼女に目をやった。
「綾芽さん……」と低い声で咎めれば、彼女は悪びれる様子も見せず、にっこりと笑った。
「美味しそうだったから、ついね」
自分の好みで選んだというのか。呆れて長い長いため息を吐く。その間にも彼女はコーヒーを勢いよく飲み干していく。その缶もコーヒー牛乳と書かれていた。
「……わざとですか、そうですか」
睨みつけるように横目で見ながら、チビチビと口をつける。途端に口いっぱいに広がる甘い味が、だんだんと違う意味で気分が落ちていく。
だけどそれ以上に胸のあたりに溜まっていたどす黒いものが、少しずつ崩れていくようだった。
綾芽さんは少し眉尻を下げて、「まったく、信用ないわね」と、笑った。だけど細められたその目が、若干輝いている。
また一つ、花瓶の花が散った。ふわり、と今度はテーブルの上に乗る。
「菖蒲が甘党だったから」
極めつけにそう言った。そのままふっと視線を外す。その目は菖蒲の寝顔に向けられていた。輝きが少しだがそれは以前も聞いた言葉だ。
一つ、瞬きをする。同時にはらり、とナデシコの小さな花びらが不規則に舞って落ちる。美しい、マゼンタ色のそれが、テーブルを離れ、私の前をひらひらひらひら。音もなく床に落ちた。
以前に飾っていたものより、なぜか大きく見えた。
不思議に思って見つめていると、カラカラ、と病室の扉が開いた。反射的に目をやれば、綾芽さんと目が合う。
「……コーヒー、飲めたよね」
後ろ手で扉を閉め、缶コーヒーを私に差し出す。「……ありがとうございます」と返すと彼女は少し、頬を赤らめた。……可愛らしい人だな、と笑った。
「菖蒲は、変わりないか」
私とは反対側に回って、窓際にもたれる。「せっかく彼女が手を握ってくれてるのに」なんてからかいながら、プシュッと音を立てて缶を開けて口をつけた。
ゆっくりと自分の視線を手元に向ける。ずっと握りっぱなしで、やっぱり少し血の気が引いていた。彼の手も血行が悪くなっては困る。そっと、手を放して、受け取ったコーヒーに口をつけた。
「……甘っ」
思わずコーヒーを二度見すれば、そこにはコーヒー牛乳なんて書かれている。じろり、と買ってきた彼女に目をやった。
「綾芽さん……」と低い声で咎めれば、彼女は悪びれる様子も見せず、にっこりと笑った。
「美味しそうだったから、ついね」
自分の好みで選んだというのか。呆れて長い長いため息を吐く。その間にも彼女はコーヒーを勢いよく飲み干していく。その缶もコーヒー牛乳と書かれていた。
「……わざとですか、そうですか」
睨みつけるように横目で見ながら、チビチビと口をつける。途端に口いっぱいに広がる甘い味が、だんだんと違う意味で気分が落ちていく。
だけどそれ以上に胸のあたりに溜まっていたどす黒いものが、少しずつ崩れていくようだった。
綾芽さんは少し眉尻を下げて、「まったく、信用ないわね」と、笑った。だけど細められたその目が、若干輝いている。
また一つ、花瓶の花が散った。ふわり、と今度はテーブルの上に乗る。
「菖蒲が甘党だったから」
極めつけにそう言った。そのままふっと視線を外す。その目は菖蒲の寝顔に向けられていた。輝きが少しだがそれは以前も聞いた言葉だ。
