あなたの死に花束を。

「店主は……まあ変わってるけど、意外とカッコいい人だったよ。菖蒲よりはおじさんだけどさ」
 何の反応も示さない彼に、ふっと笑いかける。あんまり慣れていない笑顔だが、彼にだけはずっと見せるようにしていた。慣れないことはし続けるから慣れていくわけだし。
「菖蒲はさ、店主と仲良かったんだよね。バイトみたいなことも、してたの? 私が知らないだけでほんとは、とか。……花に詳しかったのなら、もっと聞いていればよかったかもしれないな。……ああでも、あの日の夜。店主に出会ってよかった」
 もしかするとあれは、仕組まれたことだったのかもしれない。あの時間を狙って私に興味を持ってもらうために、店主が取った意図的な行動だったかもしれない。
「……それでも、あの時出会って、バイトして、本当に――」
 店主と出会って、宵花屋で働くようになった。いろんな人と関わって、自分の問題にようやく向き合う決心がついた。その過程は、かけがえのない時間だった。
「菖蒲はさ、もしかして、こうなることがわかってた?」
 問いかけるけど、彼は答えない。……だけど、この問いはきっと、目が覚めたって答えてくれないだろう。目を細めていたずらに微笑んでいる姿が浮かぶ。
「……わかってたなら、さ、菖蒲」
 そっと彼の手に触れた。彼の手は、冷たくもなく、温かくもなかった。一瞬だけ躊躇われるも、私はぎゅっと握りしめる。包み込むように、ぎゅうっと。
「そろそろ、起きてくれてもいいじゃない。
 私も、綾芽さんも、店主も、橘さんも、お医者さんも、看護師さんたちも。皆待ってるんだよ。きっと目が覚めてくれるってさ、期待してるの。
 泣かないように、枯れないように、ずっとずっと待ってるの。
 いつか菖蒲が目を覚まして、私たちに微笑みかけてくれるのを。私だってその時までは泣かないように、生きてるんだから。だからさ――」
 さっさと起きてよ。
 呟いた言葉は、もう声にならなかった。ぐっと込み上げた何かが詰まって、口を閉ざさなければ、泣き出してしまいそうだったんだ。
 俯く私の引きつった頬を、窓から入り込んだ柔い風がほどくように撫でていく。その過程で、ふと、花の香りを孕んでいることに気づいた。つられて顔を上げる。
 瞬間飛び込んできたそれに、息をのんだ。
 サンダーソニア、ナデシコが私を見下ろすように咲いていた。
「……店主、」