「よく知ってるねえ。聖子ちゃんの赤いスイートピー」
気づけばブーケをいじる手も止まっていた。楽しそうに目を細めている。
「曲、有名ですよね! 私もお母さんがよく聞いていて。母のお気に入りなんですよ」
「聖子ちゃんは今でも国民的アイドルだからねえ」
俺も好きだし、と店主が言うと彼女は、いいですね、と笑った。
私はすぐ傍に並んでいる押し花の栞の一つを手に取った。無論、赤いスイートピーだ。
スイートピーの花言葉は「門出」「別離」「ほのかな喜び」「優しい思い出」。
栞の裏には他にもスイートピーの花について色々書かれていた。もちろん曲の事まで。律儀だなあ、とちょっとだけ笑う。確かに、曲にもしたくなるほど可愛らしい花だった。
店主は立ち上がって、私の手に取った栞を奪うように取り上げる。「ちょっとっ」と睨んだら、「小種ちゃんは十分に見てたでしょ~」と笑って返してくれない。
彼を睨んでいると、ふいに彼女が口を開く。
「あの、お二人って、どういう関係なんです?」
彼女へ目をやった。店主も意外だったらしく、眼鏡の裏でちょっとだけ目を見開いき、ん? と不思議そうに首を傾げている。
彼女は、「なんていうか、」と言葉を選ぶように、ゆっくりと口を動かす。
「上司と部下、って感じには見えなくて」
店主は、ちらり、と私を一瞥してからうーん、と唸った。あごに手を当てて、軽く腕を組む。斜め上に目をやると、眼鏡が光を反射する。
「まあ、上下関係では、ないねえ」
ねえ、とこちらに問いかけて来た。
――確かに上下関係ではないけど……。
まあいいか、と一つ頷けば、彼女は、「あ、じゃあ」と即座に言う。
「恋人同士、とか?」
遠慮のない言葉選びに、「違う!」と叫んだら、店主の目がキラリ、と光る。
「もしかしてお嬢さん、職場の上司さんとかと、そう言う関係なのかい?」
声色は恐ろしいくらい冷たかった。だが彼女は気付かないのか、「バレちゃいました?」などとふざけるように笑った。
その話題にしたかっただけじゃ、と訝しげに見る私を隠すように店主が、へえ、と言って作業台に腰かけた。
彼女は楽しそうに頬に手を当てて言う。
「結婚する予定なんですよお、私」
自慢げに、これでも二十歳後半なんですけどね、と付け加える。言う割に、表情はずいぶん夢見がちな乙女だった。
気づけばブーケをいじる手も止まっていた。楽しそうに目を細めている。
「曲、有名ですよね! 私もお母さんがよく聞いていて。母のお気に入りなんですよ」
「聖子ちゃんは今でも国民的アイドルだからねえ」
俺も好きだし、と店主が言うと彼女は、いいですね、と笑った。
私はすぐ傍に並んでいる押し花の栞の一つを手に取った。無論、赤いスイートピーだ。
スイートピーの花言葉は「門出」「別離」「ほのかな喜び」「優しい思い出」。
栞の裏には他にもスイートピーの花について色々書かれていた。もちろん曲の事まで。律儀だなあ、とちょっとだけ笑う。確かに、曲にもしたくなるほど可愛らしい花だった。
店主は立ち上がって、私の手に取った栞を奪うように取り上げる。「ちょっとっ」と睨んだら、「小種ちゃんは十分に見てたでしょ~」と笑って返してくれない。
彼を睨んでいると、ふいに彼女が口を開く。
「あの、お二人って、どういう関係なんです?」
彼女へ目をやった。店主も意外だったらしく、眼鏡の裏でちょっとだけ目を見開いき、ん? と不思議そうに首を傾げている。
彼女は、「なんていうか、」と言葉を選ぶように、ゆっくりと口を動かす。
「上司と部下、って感じには見えなくて」
店主は、ちらり、と私を一瞥してからうーん、と唸った。あごに手を当てて、軽く腕を組む。斜め上に目をやると、眼鏡が光を反射する。
「まあ、上下関係では、ないねえ」
ねえ、とこちらに問いかけて来た。
――確かに上下関係ではないけど……。
まあいいか、と一つ頷けば、彼女は、「あ、じゃあ」と即座に言う。
「恋人同士、とか?」
遠慮のない言葉選びに、「違う!」と叫んだら、店主の目がキラリ、と光る。
「もしかしてお嬢さん、職場の上司さんとかと、そう言う関係なのかい?」
声色は恐ろしいくらい冷たかった。だが彼女は気付かないのか、「バレちゃいました?」などとふざけるように笑った。
その話題にしたかっただけじゃ、と訝しげに見る私を隠すように店主が、へえ、と言って作業台に腰かけた。
彼女は楽しそうに頬に手を当てて言う。
「結婚する予定なんですよお、私」
自慢げに、これでも二十歳後半なんですけどね、と付け加える。言う割に、表情はずいぶん夢見がちな乙女だった。