あなたの死に花束を。

 でも無理を続けていた高草木さん――紫陽くんのおじいさん――はね、奥様が亡くなって、ちょうど四年が経った日。突然の心臓発作で、奥様の後を追うように亡くなった。体の不調とか気のせいだ、と、病院に行かなかったらしいの。紫陽くんが悔しそうに俯いていたわ。
当然店も閉店して。いつの間にか河原さんもいなくなっていて、当時大学生だった紫陽くんは、本当に一人ぼっちになった」
 そこでふと、首を傾げる。「……ご両親は」と問うと、彼女は少し視線を落として、悲しそうに言った。
「……皮肉なものよ。奥様を見舞いに、と向かっていたところで、事故に遭われたの」
 居眠り運転していた、トラックとの衝突。
 もはや言葉も出てこない。それじゃあ、店に入り浸る理由もわかる。
「きっと、高草木さんは紫陽くんが本当に心配だったんでしょうね」
 だから自分がせめて親代わりに、と思ったのかもしれない。
両親を亡くして、大切な祖母を亡くして、泣くことすらできなかったのだから、と呟くように吐いた言葉。柔い風が、攫うように吹いていく。
 ハッとして顔を上げた橘さんは、「これは、秘密よ」とぎこちなく笑った。その笑顔はきっと、店主のぎこちない笑みとそっくりだった事だろう。
 また前を向いた彼女は語り出す。
「閉店した店の中で、ぼんやりとどこかを見つめている彼を、気にかけて店へと出向く日々が続いたわ。他愛のない話を持ち出して、お茶に誘ったりもした。
 でも、久々に私の家に娘たちが来ると聞いて、閉店している店に行く理由も言えなくて。
 一か月かしら。経った頃に、やっと店に来た時には、開店していたのよ。
 さすがに驚いて、開け放たれた入り口の前で立ち止まっていたら、彼が出てきたの。それが、びっくりするくらい大人びててねえ」
 子供の成長は早いものだけど、ちょっと寂しいわねえ、と独り呟く。
 少しだけ強くなった風が、走っている子供たちにぶつかるように吹いていった。子供たちははしゃいでまた、駆け回る。
「久々に会った私に、紫陽くんが一つ、プレゼントをしてくれた。
それがジャスミンの花束。いつだったかしら……彼は、私の夫が不倫していたことを知っていたのね。その怒りのぶつけるものがない、と愚痴をこぼしたことを覚えていたのね。
 彼は私に花束を渡して、言ったのよ。