シャラ、とピアスの鎖と、ため息が重なる。同じように呼吸しているような錯覚を覚えて、自然と口角が上がった。
ぼんやりと目を細めて見上げる空は、薄く広がった雲と、後ろに控える青が綺麗だった。日があたたかくて、心地良い。
どれくらいそうしていただろう。頭上で輝く太陽が、わずかに動き、また鳥が飛び立つ音が、鼓膜を震わせる。その中に、小さく砂利を踏む音が混じった。
「――あら、香葉ちゃん?」
足音が止まって、声がかけられる。ベンチの背もたれに預けていた身を、気だるげに起こして声のほうへと首を回す。
「……橘さん」
黄色い花柄のワンピースに上着を羽織って、籠のバッグを腕にかけている、橘さんがそこにいた。白髪はふんわりと後ろでまとめられている。優しげに細められた瞳がくすぐったいのは変わらないが、その肌は、以前にも増して白く見える。
まだ空いていた距離を埋めながら、彼女は「偶然ねえ。今日はお休み?」と言った。私は軽く笑って、ベンチの中心から少しずれつつ説明する。
「店主が、一週間休暇、って。なんか、事情があるらしいですけど」
そういうと、隣に座って私に身体を向けていた彼女は、笑みを消し「紫陽くんが、珍しいわねえ」と小さくつぶやいた。
「紫陽、くん?」
橘さんの、店主の呼び方だった。以前は確か宵花屋さん、と呼んでいたはずだが。
私が首を傾げていると、彼女はハッと瞬きを繰り返し、それからクスッと笑みをこぼす。
「高草木紫陽くん。宵花屋の店主さん」
しかし勘違いしたのか、店主のことを説明するように言った。思わず「それは、そうですけど」と返せば、困惑は伝染する。
「あら、ごめんなさい。違った?」
何が気になったのかが伝わらず、あたふたしてしまう。どうにか端的に言葉を紡ぐ。
「名前はぼんやりと。でもあの、橘さんが……」
なぜ親しげに呼ぶのかと、気になって。
チラチラと彼女の顔を伺えば、ふと、彼女は困ったように眉根を寄せた。ふわり、と香った生花の匂いに、少しだけ頭が冷静になる。
「ああ、言ってなかったかしらね。
以前の店主、高草木さんの奥様と私がお友達だったのよ。だから彼の事も、小さい頃から知っていてね。その名残、みたいなものなの」
やや陰りを見せた表情。まるで、間違いを思い出して、苦々しく思っているようだった。
ぼんやりと目を細めて見上げる空は、薄く広がった雲と、後ろに控える青が綺麗だった。日があたたかくて、心地良い。
どれくらいそうしていただろう。頭上で輝く太陽が、わずかに動き、また鳥が飛び立つ音が、鼓膜を震わせる。その中に、小さく砂利を踏む音が混じった。
「――あら、香葉ちゃん?」
足音が止まって、声がかけられる。ベンチの背もたれに預けていた身を、気だるげに起こして声のほうへと首を回す。
「……橘さん」
黄色い花柄のワンピースに上着を羽織って、籠のバッグを腕にかけている、橘さんがそこにいた。白髪はふんわりと後ろでまとめられている。優しげに細められた瞳がくすぐったいのは変わらないが、その肌は、以前にも増して白く見える。
まだ空いていた距離を埋めながら、彼女は「偶然ねえ。今日はお休み?」と言った。私は軽く笑って、ベンチの中心から少しずれつつ説明する。
「店主が、一週間休暇、って。なんか、事情があるらしいですけど」
そういうと、隣に座って私に身体を向けていた彼女は、笑みを消し「紫陽くんが、珍しいわねえ」と小さくつぶやいた。
「紫陽、くん?」
橘さんの、店主の呼び方だった。以前は確か宵花屋さん、と呼んでいたはずだが。
私が首を傾げていると、彼女はハッと瞬きを繰り返し、それからクスッと笑みをこぼす。
「高草木紫陽くん。宵花屋の店主さん」
しかし勘違いしたのか、店主のことを説明するように言った。思わず「それは、そうですけど」と返せば、困惑は伝染する。
「あら、ごめんなさい。違った?」
何が気になったのかが伝わらず、あたふたしてしまう。どうにか端的に言葉を紡ぐ。
「名前はぼんやりと。でもあの、橘さんが……」
なぜ親しげに呼ぶのかと、気になって。
チラチラと彼女の顔を伺えば、ふと、彼女は困ったように眉根を寄せた。ふわり、と香った生花の匂いに、少しだけ頭が冷静になる。
「ああ、言ってなかったかしらね。
以前の店主、高草木さんの奥様と私がお友達だったのよ。だから彼の事も、小さい頃から知っていてね。その名残、みたいなものなの」
やや陰りを見せた表情。まるで、間違いを思い出して、苦々しく思っているようだった。
