あなたの死に花束を。

 わかるかい? と子供に言い聞かせるように彼は言った。
 まるで私に押し付けて、自分が休む口実を作っているような言い方だった。「……いきなりすぎ」と言うも、今度こそ車内に入った店主は、垂れ目の澄み切った目を眼鏡越しにこちらへ向ける。
「さ、次の配達に行こうか。俺の作った花たちの晴れ姿、早く届けてやらないとね」
 バタン、と閉められた車の扉が、店主と私の間に大きな一線を引いた。

 病院以降の配達は、ほとんど覚えていない。だがとても迅速に行われたのは、よくわかった。それくらいあっという間に終わった。
 それもまた、病院への配達が特別なものだったと改めて理解させる。
 店主は途中、私的にはほとんど口を開くこともなかったが、一度だけ、運転中に言った。
「――本当はもう少し、遅くても良かったのかもしれない」
 誰に問うているのだろう。前を向いて、ただ申し訳なさそうに眉尻を下げている。しかし瞳は無理やりまっすぐにしている感情が、かすかに揺らいでいた。
「……でもやっぱり、早いに越したこともないよね。花は、一瞬一瞬が大切だからさ」
 今までで一番小さな声だっただろう。彼からしたら独り言だ。それでも助手席に座る私には鮮明に聞こえた。それ以上聞けなくて、耳を塞いだ。
 その後、電光石火のごとく、店を後にした。静かで不気味で、どこか心地よい夜風に吹かれながら、淡々と帰宅した。家の中もまた、静まり返っていた。

 二日が経った頃。珍しく気温が高くなった晴天の下を、ゆっくりと歩いていた。
夏みたく焼けるような日の光ではない。暖かな陽気が降り注ぐ。これだけを見れば美しいものだ。しかし世の中は今、分岐点であるハロウィンに目が行っていて、空を見る人などいない。現実は悲しいものだった。
 今日はそれと関係ない、静かで記憶に触れる場所へ、私は向っていた。
住宅街の隣を走る大通り……をまっすぐ行ったところにある、大きな公園だった。
小さな子供たちが走り回り、親がベンチで談笑する。その傍から、逃げるようにバサバサと飛び去る鳩。遠くを走る車のエンジン音も聞こえるが、のどかで優しい空気が漂う公園だ。
 そこに私は足を踏み入れた。人気は少なくて、並ぶベンチも空いている。向かって、座るところを少し眺め、砂を払ってから、座った。