買う予定ではないんですけど、とちょっとだけ申し訳なさそうに言っていた。
「もちろん大歓迎さ。君のような可愛らしいお嬢さんがいるだけで、花たちが喜ぶからねえ」
 甘ったるい言い方だが、端正な顔立ちをしているせいで、痛々しく聞こえない。むしろ似合っていると言ってもいいだろう。
言われた相手など、耳まで真っ赤にして、やだもう、と笑っていたくらいだ。
「その、“可愛らしいお嬢さん”ってやめてくださいよ~。大人だし、さすがに恥ずかしいですから」
「そうかい? ……本音なんだけどなあ」
 残念そう店主を他所に、しばらく彼女は不思議なものでも見るかのように、飾られている花々を眺めていた。
 店主は、彼女をからかうのをやめ、集めた花を作業台に広げる。
紙とリボンも端に並んでいるから、花束でも作るのかもしれない。……それにしてはずいぶん紙が小さかったけど。
会話のなくなった店内に、ひっそりと顔を出すBGM。有名なクラシック曲みたいだったが、名前はわからない。
 ふと、店主が口を開いた。
「そういえば、魅力的なお嬢さん。ずいぶん熱心に花を見ているようだけど、花屋には慣れているのかい? あるいは、花が好き、とか」
 可愛らしい、から魅力的。結局言い方を変えただけに、ちょっと笑った。案外店主は諦めが悪いらしい。
 声をかけられた彼女は、店主の呼び名に少し苦笑してから、困ったように、いいえ、と言った。
「ほとんど来ませんよ。花自体は好きですけど、詳しくもないですし。来るのは……それこそ母の日くらいで」
 言うわりに、慣れた手付きで花に触れている。素人が言うのもなんだが、彼女の花への触れ方は、妙に丁寧だった。
 店主はふうん、と彼女へ目をやりながら、頬杖を突く。「親孝行は、大事だねえ」など肯定しながらも、視線は鋭いままだ。
「……じゃあさ、買うのはやっぱり、カーネーション?」
 母の日といえば確かにその花だ。買ったことはないが、母の日が近付くとどこもかしこもその花で一杯になっている。誰しもが知る花だろう。
だがその人は軽く笑い、首を横に振った。
「カーネーションは育てるの、難しいから」と言って、ええと、と明後日の方向へ目を泳がせる。
「あれは確か……スイートピー、だったかな」
 聞いてふと、頭に浮かんだそれを口にする。「……赤いスイートピー」と、店主がすぐに返してきた。