あなたの死に花束を。

休憩と称してパシられるのは、あの賀川の一件からの延長だ。もはや慣れたことだし、その分長く休めるから、むしろ好都合と、私の中では落ち着いていた。
 だが店主は「いや、今日はいらないよ~」と言った。じいっと見つめいていた伝票やら書類やらを、店専用のトートバッグに詰めるなり、それをこちらに差し出す。
「今回は小種ちゃん、君にもついてきてもらうからさ」
「……え、待ってなんで急に」
 あまりに突然の通達に、困惑して聞き返す。だが店主はにっこりと笑って、ほら持って、と、言いながらトートバッグを無理やり肩にかけさせた。
「ほら、小種ちゃんにも肥料をあげないといけないと思ってねえ。あとどうせだったら、ちゃんと赤いバラの種を育ててほしいんだ~」
 意味わからないことを口走りながら、唖然として動けない私をよそに、着々と花束を用意する。とはいえ、最後の調整のようなものではあるが。
「……よくわかんないけど。とりあえず、場所は?」
 再び考えることをやめた私は、場所を聞いた。今まで気づかなかったが、配達に関しては最初、橘さんの偶然以来、まったく触れていないのだ。
 花束のリボンを丁寧に結び直していく店主は、うーん、と軽く唸る。しかし表情は薄い笑みを浮かべたまま変わらない。ただ面白そうに、内緒、と口を動かした。
「……いや、なんで?」と、素っ頓狂な聞き返しにも動じず、直した花束を左腕に抱えた。赤子を抱きかかえるような形で支え、空いている右手には鉢植えの花を持っている。
「エンターテインメントは大袈裟すぎるくらいがちょうどいいのさ。……それに、人は花と違ってストレスがいい方へ向くことも、あるわけだからねえ」
 俺はあんまり好きじゃないんだけどさあ。
 捨て台詞までよくわからないままに彼は、すでに開け放たれていた裏口から軽々と荷物を持って出ていく。出遅れ、庭に回るべきだろうか、と思っていたら、ずいぶんと楽しげに笑いながら、「早くおいで~」と裏口の無効から店主の声が響いた。
 返事の代わりに一つ、ため息を吐いた。
 裏口が開いているせいか、いつもより店の中を風が強く吹き抜けていく。肌寒さにはあ、と息を吐いたら、それすらも攫っていくようだった。
 別に何かがある、と思っていたわけじゃあない。いつもと違う状況。いつもと違う行動。それをするだけで緊張することだって、人間はある。