あなたの死に花束を。

「夢見る少女。……ああ、そうか。小種ちゃんは青いバラの種なんだ」
 リボンを直しながら彼は言う。「まあまだ、土をかぶせたばかりだけどねえ」と、嫌味ったらしく口角を上げた。
「……意味、分かんない」
 本当に理解ができなくて思考を止めた。店主の言葉に関しては考えるだけ無駄だ。
 彼は作業台にいくつも散らばったピアスを、一つ一つ同じようにラッピングしていきながら、「それじゃあ、もう一つ教えてあげるよ。特別に」と口を動かす。
「――彼女はねえ、最初に『秋の花を』、と言っていたのさ」
 瞬間、止まっていた思考がフル回転する。あ、と私の口から漏れた声は、笑えるほど間抜けなものだった。
 ポインセチアは冬の花だ。それも、クリスマスを飾る花として有名な。
恥ずかしさのあまり俯き、唇を噛んだ。そんな私を見て、いつの間にか立ち上がっていた店主は頭をポンポン、と軽く叩く。スラリ、と伸びた手だったが、男性らしく硬かった。
「焦ることはないよ。失敗も、明日には君の糧になる」
困ったように笑いながら、慰めの言葉を吐く。噛みすぎて滲む血の味と混ざり、複雑に溶け込んでくる。衝動的に込み上げたそれをぐっとこらえて、私は返す。
「……言われなくてもそうするし」
 ほとんど声にならなかったかすれ声だったが、店主は笑って、頭から手を離した。

 それからしばらく、店前を掃き掃除していた。冬も間近なこの季節。秋では美しい天然の絨毯を作り出す木の葉も、今やすっかり黒々としていた。
 店主は作ったばかりのアクセサリーを棚に並べていた。たっぷりと時間をかけて作られたそれは、まさに女性が好みそうなレイアウトだった。
 さすがだな、と掃除をしつつ見ていると、ようやく一仕事終えた、と伸びをする店主が時計に目をやる。
「――ああ、もう配達の時間だねえ」
 独り言のようにつぶやく。小さいというのに、よく響く声だ。腕を下した彼が、その流れで私を振り返り、にっこり笑いながら手招きする。
 私は頷いて、足元にまとめた枯れ葉を、掃除道具と共に店の庭のほうへと移動させて店に戻った。
 店主は作業台のところに座らず、立ったまま伝票と、予定表とを見比べている。
「……何パン?」
 問うたのは、いつもの癖だった。店主が配達に行く時間は、決まってパシリにされるのだ。