あなたの死に花束を。

目は、ずっと変わらないままの、澄んだ色を宿していた。宝石みたいにも、子供のように無邪気にも見える。あるいは、様子をうかがっている猛禽類か。
「うーん、そこまで覚えていたんだねえ。さすがだよ、小種ちゃん。だけどさあ、それなら俺より先に薦められたんじゃあないかい?」
 だが、彼は雑に話を反らして言葉を吐いた。私は思わず、はあ? と首を傾げて食いつく。
「……話、聞いてなかったの?」
 お客様の意向は最初、一緒に聞いていたはずだ。
――息子夫婦が遊びに来ていて、もうすぐ帰るから何か贈り物をしたい。特に嫁は本を読まないというから、お節介かもしれないけど本と共に栞を用意したい――。
だから尚更彼が、ネリネの栞を勧めた理由がわからなかった。単なる皮肉か。あるいは彼女が、ひいては送られる者が花言葉を知らない、と決めつけているのだろうか。
疑い深く彼を見つめる。だが彼は、微笑みを絶やすことなく口を動かす。
「君はまだまだ青いねえ。若い、というよりは、人を知らなすぎる」
 微笑みの中に、微かな氷を孕んでいるようだった。仮面的で気味が悪い。「……どういう意味」と、どうにか聞き返せば、彼は何でもないようにさらっと言った。
「つまりさ、彼女は娘をよく思っていないわけなんだ」
 ハッと瞬きする。もはや確信突く一言だった。
 店主の言葉が本当なら、彼女は伝わらなくてもただ、嫁いびりができる贈り物をしたかっただけなのだろうか。
――巧妙に感情を隠し、おかしくない物を用意したかった。
「彼女はまだわかりやすい方だったけど。小種ちゃんにはまだ難しかったようだねえ」
 店主は視線を手元に戻し、片手でアクセサリーをつまみ上げる。リィン、となるのは、鈴だ。アクセサリーに着けた防犯対策の鈴。
もちろん防犯対策がそれだけでは心もとないので他にもあるが、商品に着けるのはこれだけと決めていた。店主曰く、こだわりなんだとか。
 綺麗に作り上げられた琥珀のようなピアスを、満足そうに見つめる店主。
私は「……それでも、間違ってる」と言葉を吐いた。微かな揺らぎが指先を痺れさせる。
 もう彼はこちらを見ることなく、乾いた笑いを漏らした。
持ち上げていたピアスを透明な袋に丁寧に入れる。ラッピングワイヤーで、飛び出さないように結び、さらに上から薄水色のリボンで可愛らしい蝶結びを施す。