この花は、燃えるような真っ赤な花びらが特徴的で、和名を猩々木(しょうじょうぼく)という。押し花は少しばかり色がくすんでしまうが、代わりに持ち前の上品さが際立つ。
姑の立場だという女性からのプレゼントには良いのではないか、と思い、薦めた。
だが店主はそれをよし、とはしなかった。
「ネリネの方がいいんじゃないかい?」
すっと、女性との間に切り込みを入れられるような感覚を覚えながら、私は店主に目をやる。ほとんど睨み付けていたかもしれない。
店主は作業台に広げた、まだ中途半端なハンドメイドのアクセサリーから顔を上げて、目を細めた。
「ネリネは、また会う日を楽しみに、って意味でねえ。中々会えない人に向けるには、最高だろう?」
相変わらずの完璧な営業スマイルを、お客様に向ける。だが女性は、その笑顔に揺らぐどころか、ずいぶん複雑そうに顔を歪めていた。ほんの一瞬だけ。
しかしすぐに微笑を浮かべて「……そうね、確かに。そちらにするわ」と即決する。
「え?」と返せば、ごめんなさいね、と私に困ったように笑いかけた。とても満足しているようには見えなかった。それでも、もう他の意見を聞く気もないようだ。
「そう……ですか。かしこまりました」
悔しさともつかない、泥のような苦味を感じて、笑う顔が引きつるのを感じていた。
女性が店を出て行ってすぐ。店の入り口で見送っていた私は、彼女の姿が見えなくなったところで店主を振り返る。
「……横やり」
我ながら低く、醜い声だった。だがそれ以上に納得がいかず、複雑な感情が胸の辺りを渦巻いていた。吐き気がする。
「それは偏見だねえ、小種ちゃん」
彼は作業台に広げたアクセサリーをじいっと見つめ、細かく修正しながらそう言った。
真剣な表情だというのに、口元は微かに微笑んでいる。どことなく楽しそうなのが否めない。
「……ネリネは、『箱入り娘』じゃない」
店主が何かを言う前に、私は口を動かした。
先日覚えたばかりのそれを、頭の中の棚から引っ張り出してくる。
ネリネは、「また会う日を楽しみに」「忍耐」「箱入り娘」の意味だったはず。
それが正しければ、間違いなく姑が嫁に贈ってはいけない花だ。店主はそれをわかっていて、彼女に進めたのか。
彼はふっとアクセサリーから視線をこちらに寄越す。きらり、と眼鏡が光を反射した。
姑の立場だという女性からのプレゼントには良いのではないか、と思い、薦めた。
だが店主はそれをよし、とはしなかった。
「ネリネの方がいいんじゃないかい?」
すっと、女性との間に切り込みを入れられるような感覚を覚えながら、私は店主に目をやる。ほとんど睨み付けていたかもしれない。
店主は作業台に広げた、まだ中途半端なハンドメイドのアクセサリーから顔を上げて、目を細めた。
「ネリネは、また会う日を楽しみに、って意味でねえ。中々会えない人に向けるには、最高だろう?」
相変わらずの完璧な営業スマイルを、お客様に向ける。だが女性は、その笑顔に揺らぐどころか、ずいぶん複雑そうに顔を歪めていた。ほんの一瞬だけ。
しかしすぐに微笑を浮かべて「……そうね、確かに。そちらにするわ」と即決する。
「え?」と返せば、ごめんなさいね、と私に困ったように笑いかけた。とても満足しているようには見えなかった。それでも、もう他の意見を聞く気もないようだ。
「そう……ですか。かしこまりました」
悔しさともつかない、泥のような苦味を感じて、笑う顔が引きつるのを感じていた。
女性が店を出て行ってすぐ。店の入り口で見送っていた私は、彼女の姿が見えなくなったところで店主を振り返る。
「……横やり」
我ながら低く、醜い声だった。だがそれ以上に納得がいかず、複雑な感情が胸の辺りを渦巻いていた。吐き気がする。
「それは偏見だねえ、小種ちゃん」
彼は作業台に広げたアクセサリーをじいっと見つめ、細かく修正しながらそう言った。
真剣な表情だというのに、口元は微かに微笑んでいる。どことなく楽しそうなのが否めない。
「……ネリネは、『箱入り娘』じゃない」
店主が何かを言う前に、私は口を動かした。
先日覚えたばかりのそれを、頭の中の棚から引っ張り出してくる。
ネリネは、「また会う日を楽しみに」「忍耐」「箱入り娘」の意味だったはず。
それが正しければ、間違いなく姑が嫁に贈ってはいけない花だ。店主はそれをわかっていて、彼女に進めたのか。
彼はふっとアクセサリーから視線をこちらに寄越す。きらり、と眼鏡が光を反射した。
