あなたの死に花束を。

 それらを払いもせず、店主はテーブルに寄り掛かる。身体の大きい彼を支えるそれは、びくともせず、ただそこに存在していた。
「……これ全部、一人で育ててるの?」
 聞けば、彼は一つ頷く。
「まあねえ。小さな店だったからさ、合間を縫って作り上げるのには、特に苦労もなかったんだ」
「へえ」
 軽く相槌を打つ。だがそのまま軽く首を傾げた。
 不思議だった。合間を縫って作り上げる、ということはつまり、店から離れずずっと花の世話をしてきた、ということなのだろう。
 その間、人との交流はしていたのだろうか、と疑問が浮かんだのだ。
 私は、ほとんど毎日のように店に来ているが、それでも友人とは少なからず連絡を取っている。レポート提出日が迫っていると特に。
だが彼はどうだろう。
 店にいる間は、まったくと言っていい程人と交流する姿を見ていない。もちろん店に来るお客様には対応している。質問されれば丁寧に説明して、オススメもする。
 だがそれ以外はほとんど人と交流している様子がなかった。
休憩と称して店を閉めている間も、連絡を取っている様子もない。花の手入ればかりだった。
 だというのに、だ。この店の仕事道具は、なぜかいくつもある。それも、あからさまに女性用の物も。
 私というアルバイトが入ってから用意したのかもしれない、と最初見つけた時は、思ったが、よくよく見れば、使い込まれているものばかりなのだ。
 何年も何年も、大切に使ってきたような、小さな傷跡がちやほらと見つかる。
 それらが埃をかぶっていたのなら、以前働いていた人の使っていたものなのかもしれない、と思った。だがそうでもない。
 毎日使う前の手入れ、とでも言わんばかりに、いつもしっかりと磨かれていた。……ハサミまでも。
 だから一層不思議なのだ。店主の行動は、一見花が大好きだから、と言えるものなのに、目線を変えたら違うことが。
 ――人そのものを、避けているような、そんな行動。
 とはいえ、何が店主をそうさせているのかも、聞く勇気など私にはない。そもそもアルバイトと、雇用主の関係だ。理由もない。
 ふと、店主がマグカップをテーブルに置いた。オレンジ色に照らされていた庭は、そろそろ闇に溶け込もうとしている。