言いながらそっと、イラストの部分を撫でる。カフェオレが冷えていたせいか、すでにカップには、結露が薄っすらと浮かんでいた。
「……イヤリングに、関係あるの?」
ほとんど無意識に口から飛び出した言葉だ。もうそろそろ聞いてもいいかな、とタイミングを見計らっていた。
ある意味では唐突で、ある意味では最高にぴったりな空気。
店主はそれをただ、冷ややかな目をして「意外と鋭いよねえ、小種ちゃんって」と一掃した。答えたくない、と本音が瞳の奥で複雑に絡まって見えた。
私は理由を付けて返す。あくまで、普通に。
「……そりゃ、何度も目にしたらそう思うでしょ」
店主はどこか賞典の合わない目をカップに向けて、ぼんやりしていた。珍しいことだ。だが黙り込んだかと思った彼は、すぐ口を動かす。
「うーん、及第点かなあ」
何の、とは聞けなかった。彼はきっと話したくはないのだろう。もしかすると、誰にも話すことなく、なかったことにしたいのかもしれない。
だから、私はこれ以上聞けなかった。「あっそ」と、何でもなかったというように返して、缶コーヒーを口に含む。鉄っぽさと、苦々しい味が口に広がって眉間にしわが寄る。
ふと、店主がマグカップを作業台に置いた。
コン、と小気味良い音が鼓膜を震わせる。顔を上げれば、シャラン、と私のピアスも微かに揺れる。
店主の目は私ではなく、作業台の奥の、窓ガラスに向けられていた。
「……そう言えばさ、小種ちゃん。まだ店の庭見てなかったよねえ。ちょうどいい時間だし、覗いてごらんよ」
一瞬悩んだが、結局私は席を立った。
ただ店の裏口は使わず、正面玄関を通り、申し訳程度に駆けられた庭へ続く路地へ入る。ここだけはずいぶん暗くてじめじめしていた。
だがそこを抜けた先にあるそれが、やけに眩しく見えたのは、その前に用意された空間のおかげでもある。
それくらい幻想的で、夢想的な花園が、そこにあった。
カシャカシャと、まさに絨毯のように広がる落ち葉を踏みしめる。その中を、数種類の花が、鮮やかに咲き誇っていた。
白いアーチに絡まる緑のツタ。四つに分けらえた花壇は、どこか外国を思わせる。
「――彼女らはね、枯れる直前だとしても、美しく咲き誇るもんなんだ」
遅れて、店の裏口から入ってきた店主が言った。申し訳程度に置かれた白いテーブルセットは、すっかり落ち葉で埋まっている。
「……イヤリングに、関係あるの?」
ほとんど無意識に口から飛び出した言葉だ。もうそろそろ聞いてもいいかな、とタイミングを見計らっていた。
ある意味では唐突で、ある意味では最高にぴったりな空気。
店主はそれをただ、冷ややかな目をして「意外と鋭いよねえ、小種ちゃんって」と一掃した。答えたくない、と本音が瞳の奥で複雑に絡まって見えた。
私は理由を付けて返す。あくまで、普通に。
「……そりゃ、何度も目にしたらそう思うでしょ」
店主はどこか賞典の合わない目をカップに向けて、ぼんやりしていた。珍しいことだ。だが黙り込んだかと思った彼は、すぐ口を動かす。
「うーん、及第点かなあ」
何の、とは聞けなかった。彼はきっと話したくはないのだろう。もしかすると、誰にも話すことなく、なかったことにしたいのかもしれない。
だから、私はこれ以上聞けなかった。「あっそ」と、何でもなかったというように返して、缶コーヒーを口に含む。鉄っぽさと、苦々しい味が口に広がって眉間にしわが寄る。
ふと、店主がマグカップを作業台に置いた。
コン、と小気味良い音が鼓膜を震わせる。顔を上げれば、シャラン、と私のピアスも微かに揺れる。
店主の目は私ではなく、作業台の奥の、窓ガラスに向けられていた。
「……そう言えばさ、小種ちゃん。まだ店の庭見てなかったよねえ。ちょうどいい時間だし、覗いてごらんよ」
一瞬悩んだが、結局私は席を立った。
ただ店の裏口は使わず、正面玄関を通り、申し訳程度に駆けられた庭へ続く路地へ入る。ここだけはずいぶん暗くてじめじめしていた。
だがそこを抜けた先にあるそれが、やけに眩しく見えたのは、その前に用意された空間のおかげでもある。
それくらい幻想的で、夢想的な花園が、そこにあった。
カシャカシャと、まさに絨毯のように広がる落ち葉を踏みしめる。その中を、数種類の花が、鮮やかに咲き誇っていた。
白いアーチに絡まる緑のツタ。四つに分けらえた花壇は、どこか外国を思わせる。
「――彼女らはね、枯れる直前だとしても、美しく咲き誇るもんなんだ」
遅れて、店の裏口から入ってきた店主が言った。申し訳程度に置かれた白いテーブルセットは、すっかり落ち葉で埋まっている。
