彼は「ああ、」とにやついたまま言う。「まだ咲いてないからね」と目を細めながら。
「……言ってる意味が、分からないんだけど」
訝し気に睨むが、彼はひるむことなく笑う。
「わからなくていいんだよ」
俺の見えているこれが、君に見えるわけじゃないだろう?
そういう彼に、花を眺めながら、ふうん、と軽く返した。彼はまた言葉を吐く。
「それよりさ、何をお求めだい? 花束? アクセサリー? 栞? 俺が作れるものなら何でも作るよ。
一輪だけなら、健気な子、魅惑的な子、純粋な子、重い言葉を抱える子もいる。どの子も可愛くてキラキラしているし、最高の状態だ」
店内を、ステップでも踏むように移動しては、花を見つめる。眼差しが、ひどく熱っぽくて気持ち悪い。
ふと、歩くのをやめた彼は、あごに手を当てる。逡巡(しゅんじゅん)するように目線を動かして、今度は花をじっくりと眺め出した。
「……今日のオススメはあ、これかな」
そう言って取り上げた一輪は、紫色のひらひらした花だった。緑色の茎が遠目からでもわかるくらいみずみずしい色をしている。
それをくるくると回して、顔に近づけた。匂いを確かめるように。花びらが眼鏡に触れそうになって揺れている。
「はかなげで可愛いだろう? ラベンダーって言うんだ。魅惑的な香りを漂わせるくせに、全然主張しない健気な花。でも優しく包み込むように、人にそっと寄り添う子なんだよ。
……時季外れだから、ちょっと弱々しいけどねえ」
楽しそうに、花を愛でるように見つめていた。
しかしなぜだろう。その目には、愛しさだけが揺らいでいるようには見えない。
「……花、買うつもりじゃないんだけど」
ぼそぼそと言葉を吐いた。水分が足りなくて、なんだかかすれた声になる。
店主は、またこちらに目をやって、ニヤリ、と笑った。
「まあ、そうだろうねえ」
あんなにも熱っぽかった目線はいつの間にか消えていた。代わりに、瞳の中には冷たいだけの何かが揺らいでいた。
「俺が求めているのも、それじゃあないのさ」
不気味なくらい、シン、と辺りが静まり返った。
そう言えばこの店は、BGMが流れていない。かけられている時計も、とても静かだった。
「……どういうこと?」
聞き返すが、彼は笑うだけで、それ以上何も言わなかった。
「……言ってる意味が、分からないんだけど」
訝し気に睨むが、彼はひるむことなく笑う。
「わからなくていいんだよ」
俺の見えているこれが、君に見えるわけじゃないだろう?
そういう彼に、花を眺めながら、ふうん、と軽く返した。彼はまた言葉を吐く。
「それよりさ、何をお求めだい? 花束? アクセサリー? 栞? 俺が作れるものなら何でも作るよ。
一輪だけなら、健気な子、魅惑的な子、純粋な子、重い言葉を抱える子もいる。どの子も可愛くてキラキラしているし、最高の状態だ」
店内を、ステップでも踏むように移動しては、花を見つめる。眼差しが、ひどく熱っぽくて気持ち悪い。
ふと、歩くのをやめた彼は、あごに手を当てる。逡巡(しゅんじゅん)するように目線を動かして、今度は花をじっくりと眺め出した。
「……今日のオススメはあ、これかな」
そう言って取り上げた一輪は、紫色のひらひらした花だった。緑色の茎が遠目からでもわかるくらいみずみずしい色をしている。
それをくるくると回して、顔に近づけた。匂いを確かめるように。花びらが眼鏡に触れそうになって揺れている。
「はかなげで可愛いだろう? ラベンダーって言うんだ。魅惑的な香りを漂わせるくせに、全然主張しない健気な花。でも優しく包み込むように、人にそっと寄り添う子なんだよ。
……時季外れだから、ちょっと弱々しいけどねえ」
楽しそうに、花を愛でるように見つめていた。
しかしなぜだろう。その目には、愛しさだけが揺らいでいるようには見えない。
「……花、買うつもりじゃないんだけど」
ぼそぼそと言葉を吐いた。水分が足りなくて、なんだかかすれた声になる。
店主は、またこちらに目をやって、ニヤリ、と笑った。
「まあ、そうだろうねえ」
あんなにも熱っぽかった目線はいつの間にか消えていた。代わりに、瞳の中には冷たいだけの何かが揺らいでいた。
「俺が求めているのも、それじゃあないのさ」
不気味なくらい、シン、と辺りが静まり返った。
そう言えばこの店は、BGMが流れていない。かけられている時計も、とても静かだった。
「……どういうこと?」
聞き返すが、彼は笑うだけで、それ以上何も言わなかった。