飾っていた生花のナデシコが一輪、茶色く変色していた。他の花はまだ咲いているが、彼女らもそう長くはもたないだろう。
 ふう、と一つため息を吐いて、鉢植えごと作りかけのドライフラワーがある台の上に移動する。揺れて、一枚だけ花びらが落ちた。
 朝日が差し込む光の中。ニュースを聞きつつ、店から持ち帰ったハーバリウムを手に取った。
 中に漂うアネモネ、ナデシコ、サンダーソニアの花。可愛らしい色合いに、目を細める。
 それを、先日飾ったばかりのラベンダーの横に飾った。……少し華やかすぎるか。しかしこれもこれで、悪くない。
 その横にもう一つ。即席で作った小さな花束を飾る。アザミ、シロツメクサ、そしてトリカブトの花束だ。
 共通する花言葉の意味を思い出し、クスっと口角を上げた。どれもこれも、美しい見た目をしているというのに、怖いものだ。
 さて、と彼は顔を上げた。ここまで緻密な計画を立てて作った道筋。そろそろ影響してもいい頃だろう。
「――枯れずに芽を出してくれるといいけど」
 珍しく不安を口にする。が、すぐに取り消すように笑った。
「まあ、咲けば案外、華々しく散ってくれるかもしれない」
 彼女ならきっともっと上手くやるだろうに、とは口にはしなかった。
 朝日が差し込む小さな部屋。飾られた花々が日差しを浴び、霧吹きで受けた水滴を反射する。もうすぐ訪れる、本当のクライマックスを待ちわびているように。
入り込んだそよ風に揺られ、微笑んでいた。

   閑話 二

 賀川と再会してから、もう二週間と少しが過ぎた。秋に混じるように、寒々しい冬の空気が道に漂い始めていた。
 あれから何度かパン屋を訪れたが、もうその姿を見ることは叶わなかった。
 事件を知ったのは、だいぶ後のこと。それも、偶然の出来事だった。
 木曜日。
大学帰り、パン屋に寄った。今日もいなかったらさすがに店の人に聞いてみようか、と思っていた矢先だった。
「――やっぱり今日も、あの男の子いないのね」
 ボソッと寂し気に言う彼女。「可愛くてイケメンのあの子」と続けざまに言えば、女性スタッフは困ったように苦笑する。
「申し訳ありません。事情がありまして……」
 甘ったるい香水と、パンが焼ける匂いが混ざって息苦しい空間になっていた。