「面白いよねえ、人間ってさ。花と違って、言葉があるのに。花よりずっと生きにくい世界に生きている。……背負う必要のない罪悪感と責任感に、苛まれているんだから」
 今まで彼が放った言葉の中で唯一、賀川を哀れむ感情を、抱いているようだった。

 もうすっかり闇に落ちた道を前に、オレンジ色の光で満ちた花屋の店内。パチン、と、最後の花の茎が揃えられたところで、賀川が口を開いた。
「……オレは、どうすればよかったんだ?」
 言葉が、私の中にじわり、と染み込む。それは私も思っていたことだった。
 ――どうすれば、救えたのか。
 今更どうしようもない。過ぎた時間は戻らない。それはわかっているけれど、それでも……考えてしまうのだ。何ができたんだろう、何をするべきだったんだろう、と。
 賀川の問いに、店主は答えない。
 揃えた花をラッピングペーパーで包み、シュルシュルと音を立ててリボンを作り出す。紫と白のコントラストが美しい花束を、あっという間に作り上げた。
「――人も花も、いつか必ず枯れる」
 完成と同時に、店主が言った。「でも君はまだ、枯れてない。だから――」と、作り上げたばかりの花束を、賀川に向けて差し出した。
「これは一つの選択肢だ」
 差し出した花束を見て、賀川の顔色が変わった。目を見開いて、「これって」と呟く。
 店主はこれみよがしに使った花を、説明する。
「中心を彩るのは、凛としているアザミ。周りには可愛らしいシロツメクサ。彼女らを包み込むようにしてるのが、トリカブトだ」
 今回は普通サイズの花束だった。使われている花の量からしても、圧倒的な存在感だ。
 賀川はそれ、ただじっと見つめている。
「これ、全部、花言葉が……」
 復讐、と声にならない言葉が、賀川の口から漏れ出し、店主の提示した選択肢の意味が頭を過る。思わず店主の顔を見て、言葉に詰まった。彼の顔はひどく、傷ついていた。
 彼は、差し出した花束をそっと愛でるように触れる。「あの話、実は続きがあってね」と切り出した。
「……可哀想な男の子は最初こそ、後輩にあたって鬱憤晴らししていたんだ。
けど、高校を卒業して変わろうと、努力したんだよ。自分の罪を認めて、やり直そうとした。
 でもある日、その後輩が別の女の子と歩いているのを、街中で見かけてしまった……」