土曜日。賀川の来店からちょうど一週間が経った。
いつも通り講義の後、宵花屋へと足を運んだ。店先についたとき、オレンジ色ではない光が店から漏れ出していることに気づいた。
「……店主?」
 ひょっこりと頭をのぞかせる。最初に飛び込んできたのは、光るガラス瓶だった。
 三角フラスコみたいな形の透明な瓶。詰められた花々の中に、小さな電球型のライトが入っていて、それがちらちらと揺れている。
 彼はそれを、四方八方から眺めていた。立ったり座ったりと忙しない。
「店主」
 もう一度呼ぶ。やっと振り返った店主の手には、ハーバリウムが握られていた。
「ああ、小種ちゃんか。おはよう。良い午後だね」
 店主の言うとおり、今日は太陽が幾分明るく世界を照らしていた。眩しい光の中を歩いてきたせいで、店の中が若干暗く見えるほどだ。言い方がなあ、と薄く笑う。
 店主の挨拶に、ふと思い出して「……あ、えっと、おはようございます」と一応返した。彼はパチパチと瞬きした。あごを触っていた手が、すっと離れて止まる。
「君が俺に挨拶するなんて……。裏があるのかい? 成長だったら素晴らしいことだけど」
 眼鏡をかけ直しながら笑う店主に、「……うるさいよ。てか何? それ」と適当に言って、私は光るハーバリウムを指さす。
 店主は相変わらずニヤニヤと笑っていたが、質問にはちゃんと答えてくれた。
「美しいだろう? 専用のライトを付けてあるんだ。暗闇に対応して、ブラックライトをね。
あんまり需要はないんだけど、暗闇だとまた別の顔を見せてくれるからさあ。花が好きな男の子へのプレゼントには、ピッタリだと思わないかい?」
「……理由はともかく、まあ……綺麗だと思う」
 年頃の男子が考えることはわからない。が、美しい、という言葉が似合う見た目をしていた。光っているというのに、上品に見えるのは純粋に凄い。
 荷物を置いて、しげしげとそれを見つめた。
 ハーバリウムは恐らく賀川の依頼通りだろう。ナデシコとサンダーソニアはすぐわかる。そして恐らく、この白い花がアネモネか。
 ふと思い出したのは、賀川に聞いた宵花屋の噂。
「……店主、あのさ――」
口にしかけたところで店主がふいに立ち上がる。私はつい、口を閉ざした。
彼は店の出入り口へと歩いていき、やがてニヤリ、と笑う。
「……さて、出来合いのクライマックスといこうか」