「……はい。決まってました。けど」
言いかけて、ぐっと上唇を噛んだ賀川。眉間に寄ったしわが、言いたくないと叫んでいた。
それでも店主は「けど?」と次の言葉を吐くよう促す。
賀川は、ふう、と小さくため息を吐いて言った。
「棄権したんです。……身体を壊して」
そこに何か、許せないものでもあるのだろうか。
その話の間、彼はずっと、握り拳を作ったまま、悔いるように斜め下に目線をやって、形のない敵でも睨んでいるかのようだった。
店主はしばらく黙り込んで、賀川をじいっと見つめていた。
店内はBGMも流れていない。空調の小さな機械音だけが鼓膜を微かに震わせる。
「……君も大概、枯れかけなんだねえ」
徐に店主が言った。
その言葉は前に、私が言われた言葉だ。一体何を、と店主に目をやれば、彼は再び立ち上がって、彼に問う。
「店の噂、誰から聞いたの?」
私にはわからなかったが、店主の言葉に、賀川はゆっくりと目線を店主に合わせた。
すがるような、でも裏切られそうになっている、一人の人間がいた。
「なぜ、そう思うんです?」
それはもう、肯定を意味していた。店主はただ、目を細めて笑う。
「君だけじゃないからさ」
「……噂通り、ってことか」
目を逸らさず淡々と聞き返す賀川に、店主は「さあねえ」と誤魔化す。初めて見た、複雑に絡まった糸みたいな笑い方だ。
再び三人の間に静寂が降り立とうとする。だが、かき消すように賀川が声を上げた。
「――お願いがあるんです」
温い声。歪められた顔を見つめて、店主はただ彼の次の言葉を待っていた。
賀川は一度目を瞑った。ほんの数秒が過ぎて、それから。
「オレは……死んだアイツの本音が知りたい」
つうっと、こめかみから汗が伝った。
同時にシャラン、シャラリ。ピアスが小さく鳴いている。鼓動に合わせるように。
「……死んだ、アイツ?」
私の方が聞き返していた。店主が薄い笑みを浮かべたまま、何も言わない。
賀川は「アイツは、アイツは死ぬような奴じゃ、なかったんだ。だから」と、自分に言い聞かせるように言った。私への返答ではなかった。
しばらく黙っていた店主が口を開く。
「――悪いけど、俺は依頼を受けないよ」
だが、吐かれた言葉は、賀川を突き放すものだった。
目を見開く賀川。「でも、アネモネは」と呟くが、店主は笑ったまま続ける。
言いかけて、ぐっと上唇を噛んだ賀川。眉間に寄ったしわが、言いたくないと叫んでいた。
それでも店主は「けど?」と次の言葉を吐くよう促す。
賀川は、ふう、と小さくため息を吐いて言った。
「棄権したんです。……身体を壊して」
そこに何か、許せないものでもあるのだろうか。
その話の間、彼はずっと、握り拳を作ったまま、悔いるように斜め下に目線をやって、形のない敵でも睨んでいるかのようだった。
店主はしばらく黙り込んで、賀川をじいっと見つめていた。
店内はBGMも流れていない。空調の小さな機械音だけが鼓膜を微かに震わせる。
「……君も大概、枯れかけなんだねえ」
徐に店主が言った。
その言葉は前に、私が言われた言葉だ。一体何を、と店主に目をやれば、彼は再び立ち上がって、彼に問う。
「店の噂、誰から聞いたの?」
私にはわからなかったが、店主の言葉に、賀川はゆっくりと目線を店主に合わせた。
すがるような、でも裏切られそうになっている、一人の人間がいた。
「なぜ、そう思うんです?」
それはもう、肯定を意味していた。店主はただ、目を細めて笑う。
「君だけじゃないからさ」
「……噂通り、ってことか」
目を逸らさず淡々と聞き返す賀川に、店主は「さあねえ」と誤魔化す。初めて見た、複雑に絡まった糸みたいな笑い方だ。
再び三人の間に静寂が降り立とうとする。だが、かき消すように賀川が声を上げた。
「――お願いがあるんです」
温い声。歪められた顔を見つめて、店主はただ彼の次の言葉を待っていた。
賀川は一度目を瞑った。ほんの数秒が過ぎて、それから。
「オレは……死んだアイツの本音が知りたい」
つうっと、こめかみから汗が伝った。
同時にシャラン、シャラリ。ピアスが小さく鳴いている。鼓動に合わせるように。
「……死んだ、アイツ?」
私の方が聞き返していた。店主が薄い笑みを浮かべたまま、何も言わない。
賀川は「アイツは、アイツは死ぬような奴じゃ、なかったんだ。だから」と、自分に言い聞かせるように言った。私への返答ではなかった。
しばらく黙っていた店主が口を開く。
「――悪いけど、俺は依頼を受けないよ」
だが、吐かれた言葉は、賀川を突き放すものだった。
目を見開く賀川。「でも、アネモネは」と呟くが、店主は笑ったまま続ける。