出入り口で立ち止まっていたら、気が付いたその人が顔を上げてにっこりと笑った。しかしその笑みはすぐに消え去る。
「――榎並?」
店内を流れる有名なjpopだけが、一瞬取り残されたように流れていた。
これまた既視感のある若干高い声。じいっと、しばらく彼の顔を見ていたが、ハッと目を見開いた。思い出した、賀川だった。
賀川竜巳(かがわたつみ)。高校時代三年とも同じクラス。学年問わず人気者で、青春を謳歌(おうか)してます、と言わんばかりに輝いていた人物だった。
誰にでも分け隔てなく接するから、救われた生徒は数知れず。
各言う私も例に漏れず。彼のおかげでクラスに馴染めた人間だった。
あれからもう二年も経っている。というのに、彼は私を覚えていてくれたらしい。そんな高い記憶力があるからこそ、人に好かれるのかもしれない。
「え、まじで榎並? うわあ」
手元に広げていたお金を片付けて、チラッと店内にかけられた時計に目をやる。
私もつられて時計を見れば、時刻は午後三時二十分を指していた。
「このあと時間ある?」
こちらに視線を戻した彼は、久々だし話そうぜ、と笑った。その微笑みは卒業してからも変わらない。ふっと笑い返しながら頷く。
「……ちょうど私も休憩だし、いいよ」
「よっしゃ。待ってろ」
くしゃくしゃにした彼の顔を見て、つい犬種のラブラドールレトリバーを思い浮かべたことは、胸に秘めておくことにする。
店主に頼まれたものと、自分用パンを購入して、袋は別に購入した後、カフェスペースでゆっくりと腰を落ち着けた。
その頃には賀川も、仕事を終えてパンを選んでいた。
スタッフの特権だとかなんとか言って、大量にトレーに乗せている。その様子を視界に留めつつ、目の前に広げたパンにかぶりついた。
ふわり、と沈む感触に、思わず口角が上がるのを感じた。
「――上手いだろ?」
得意げな顔に、素直に認めるのがしゃくで、つい「……まあ、そこそこ」と呟く。が、彼には通用しない。やはり「それがいいんじゃん」と返されてしまった。
「焼きたては特におすすめするっ」と言いつつ私の前に座って、早速パンにかぶりついた。
数秒経たないうちに彼の顔に浮かぶ屈託のない笑み。客より喜んで食べている辺り、パンが好物なのかもしれない。
「そういやさ、お前なんでここにいるんだ?」
大学進学してなかったっけ。
「――榎並?」
店内を流れる有名なjpopだけが、一瞬取り残されたように流れていた。
これまた既視感のある若干高い声。じいっと、しばらく彼の顔を見ていたが、ハッと目を見開いた。思い出した、賀川だった。
賀川竜巳(かがわたつみ)。高校時代三年とも同じクラス。学年問わず人気者で、青春を謳歌(おうか)してます、と言わんばかりに輝いていた人物だった。
誰にでも分け隔てなく接するから、救われた生徒は数知れず。
各言う私も例に漏れず。彼のおかげでクラスに馴染めた人間だった。
あれからもう二年も経っている。というのに、彼は私を覚えていてくれたらしい。そんな高い記憶力があるからこそ、人に好かれるのかもしれない。
「え、まじで榎並? うわあ」
手元に広げていたお金を片付けて、チラッと店内にかけられた時計に目をやる。
私もつられて時計を見れば、時刻は午後三時二十分を指していた。
「このあと時間ある?」
こちらに視線を戻した彼は、久々だし話そうぜ、と笑った。その微笑みは卒業してからも変わらない。ふっと笑い返しながら頷く。
「……ちょうど私も休憩だし、いいよ」
「よっしゃ。待ってろ」
くしゃくしゃにした彼の顔を見て、つい犬種のラブラドールレトリバーを思い浮かべたことは、胸に秘めておくことにする。
店主に頼まれたものと、自分用パンを購入して、袋は別に購入した後、カフェスペースでゆっくりと腰を落ち着けた。
その頃には賀川も、仕事を終えてパンを選んでいた。
スタッフの特権だとかなんとか言って、大量にトレーに乗せている。その様子を視界に留めつつ、目の前に広げたパンにかぶりついた。
ふわり、と沈む感触に、思わず口角が上がるのを感じた。
「――上手いだろ?」
得意げな顔に、素直に認めるのがしゃくで、つい「……まあ、そこそこ」と呟く。が、彼には通用しない。やはり「それがいいんじゃん」と返されてしまった。
「焼きたては特におすすめするっ」と言いつつ私の前に座って、早速パンにかぶりついた。
数秒経たないうちに彼の顔に浮かぶ屈託のない笑み。客より喜んで食べている辺り、パンが好物なのかもしれない。
「そういやさ、お前なんでここにいるんだ?」
大学進学してなかったっけ。