部屋の片隅に置いてある小さな液晶テレビから、淡々とニュースを伝えるアナウンサーの声が流れていた。
 真面目な顔で、淡々と言葉が流れていく。
 夏の体操競技全日本大会へ出場が決まっていた選手が棄権を表明。
 ○○大学在学中の男性が、先日深夜零時頃。首を吊った。警察曰く死因は自殺。そのまま捜査は打ち切りとなった――。

秋も半ば。道端に咲く金木犀が、ちらほらと散り出した頃。風が、形容できない秋の香りを運び始める。白い雲は高く、鱗のように空を泳いでいた。
 花屋のバイトを始めてから約一週間が経った。
やっていることと言えば、花の図鑑と店にある花を照らし合わせて暗記か、落ちた花びらや、葉をかき集めて掃除するくらい。
 店主はそんな私を、さも楽しそうにからかってくる。
「中々芽が出ないねえ、小種ちゃん。この間までの賢さはどこへ行ったんだい?」
「……うるさいよ」
 暗記に疲れて掃除を始めると、店主はさらに言葉を続ける。
「花の名称くらい、さっさと覚えてほしいんだけどなあ」
 言いながらも彼の手は、迷いない動きで花束を作り上げていく。
今度は可愛らしい丸い花が詰められたミニブーケだ。名前は確か、千日紅、と図鑑に書いてあった。依頼の品らしい。
 紫とピンク色。女性に受けそうな可愛らしい見た目で、込み上げていた苛立ちも、少しは落ち着くようだった。
 ふと、手を止めて、軽く耳に触れる。
シャラン、と鎖のこすれる音にふっとため息を吐く。
 そう言えば、と店主に目をやった。
「……今朝のニュース、見た?」
「ん? ああ、もちろんみたよ~。自害してしまった男性のことばかりやっていたからねえ」
 薄く笑った彼。
目には冷ややかな感情が優雅に泳いでいた。私は目線を少し逸らす。
「小種ちゃんの通ってる大学の人、だったよねえ?」
 すうっと頬を撫でる柔い風。釣られるように、あるいは逃げるように外へ目をやった。
鳥も眠ってしまいそうな程、温かくて頼りない日差しが、店前のアスファルトを照らしている。
 そう、店主の言った通り。私の通う大学の男性が亡くなった。それも私と同い年の。
ただそれだけの理由で、胸の辺りがずっと、モヤモヤしていた。
 店主は気づいていたのだろう。だからあえて煽るように言ったのかもしれない。
「――忘れちゃいなよ」
 ナイフのような言葉に、思わず店主を見やる。