渡されたそれは、ずいぶん細くて小さなものだった。だが、ふわり、と鼻先をくすぐるその香りは、存在感が強い。
「……この匂い、好きかも」
店主は嬉しそうにパアッと笑みを見せる。
椅子にゆったりと腰かけて、切り取った茎の部分を集めながら言った。
「ラベンダーはハーブの女王といってね。シソ科の花なんだ」
思わず手に持つそれを凝視した。シソは私の苦手なものの一つだったからだ。
それに気付いてか、彼は面白そうに口角を上げた。
「古代ローマ時代から香草とか薬草として扱われてきたものだからねえ。君からしてみれば大先輩だ。……嫌わないであげてね」
軽く相槌を打ちながら、空いてる手でスマホを操作する。ラベンダーについて調べれば、いくつものサイトがピックアップされた。
――それだけ人気というわけか。
花言葉は「沈黙」「私に答えてください」「期待」「不信感」「疑惑」。
良くも悪くも見た目通り、と苦笑を漏らす。
しかしまあ、精神安定、鎮痛と、ちゃんと効果があるというのだから、忙しい花なんだろう。
「フランスではポプリを入れた小さな布袋に……サシェっていうんだけど、枕元に置いて香りを楽しむんだってさ」
どのみち私にはわからないので、ふうん、とだけ返し、スマホの電源を落とす。
「店に飾るには、小さすぎない?」
受け取ったものを、なんとなく弄る。
店主は、クスッと笑って言った。「そりゃあねえ」と、切れ端の部分を勢いよくゴミ箱に捨てながら続けた。
「こんな小さなもの、値段付けても買い手がつかないよ。駅下とかだったら別だろうけど。
……これはプレゼント用だから、売る気もないさ」
店主は片付ける手を止めて、切れ長の、キラキラと光を反射する瞳をこちらに向けた。
「小種ちゃんって、鏡使ってる?」
よくわからない質問に、首を傾げつつ「……そりゃまあ」と、返す。彼は呆れた様子でため息を吐いた。
それから身を屈めて、作業台の下の引き出しを漁る。「夜に目覚める花だって、昼間に眠るから目を覚ますんだよ」と言う。私はさらに首を傾げた。
「君は案外自分が見えていないようだね」
すっと取り出した、四角い何かをこちらに向ける。それが鏡だと気付くのには時間がかからなかった。
「あ……」
映った自分の顔に、一瞬戸惑う。そこに居る自分は、ひどかった。
「……この匂い、好きかも」
店主は嬉しそうにパアッと笑みを見せる。
椅子にゆったりと腰かけて、切り取った茎の部分を集めながら言った。
「ラベンダーはハーブの女王といってね。シソ科の花なんだ」
思わず手に持つそれを凝視した。シソは私の苦手なものの一つだったからだ。
それに気付いてか、彼は面白そうに口角を上げた。
「古代ローマ時代から香草とか薬草として扱われてきたものだからねえ。君からしてみれば大先輩だ。……嫌わないであげてね」
軽く相槌を打ちながら、空いてる手でスマホを操作する。ラベンダーについて調べれば、いくつものサイトがピックアップされた。
――それだけ人気というわけか。
花言葉は「沈黙」「私に答えてください」「期待」「不信感」「疑惑」。
良くも悪くも見た目通り、と苦笑を漏らす。
しかしまあ、精神安定、鎮痛と、ちゃんと効果があるというのだから、忙しい花なんだろう。
「フランスではポプリを入れた小さな布袋に……サシェっていうんだけど、枕元に置いて香りを楽しむんだってさ」
どのみち私にはわからないので、ふうん、とだけ返し、スマホの電源を落とす。
「店に飾るには、小さすぎない?」
受け取ったものを、なんとなく弄る。
店主は、クスッと笑って言った。「そりゃあねえ」と、切れ端の部分を勢いよくゴミ箱に捨てながら続けた。
「こんな小さなもの、値段付けても買い手がつかないよ。駅下とかだったら別だろうけど。
……これはプレゼント用だから、売る気もないさ」
店主は片付ける手を止めて、切れ長の、キラキラと光を反射する瞳をこちらに向けた。
「小種ちゃんって、鏡使ってる?」
よくわからない質問に、首を傾げつつ「……そりゃまあ」と、返す。彼は呆れた様子でため息を吐いた。
それから身を屈めて、作業台の下の引き出しを漁る。「夜に目覚める花だって、昼間に眠るから目を覚ますんだよ」と言う。私はさらに首を傾げた。
「君は案外自分が見えていないようだね」
すっと取り出した、四角い何かをこちらに向ける。それが鏡だと気付くのには時間がかからなかった。
「あ……」
映った自分の顔に、一瞬戸惑う。そこに居る自分は、ひどかった。