「……何?」
買え、とでも言われるのかと身構えていたら、店主はただ笑った。上品な笑みに重なって見えたのは、ずいぶん幼い子供の顔で。
「歓迎の証~」
花を使ったハンドメイドアクセサリー。店のスタッフの証。
言いながら彼も、首元からネックレスを取り出した。それはイヤリングと同じように、二つの花が閉じ込められている。まるで、イヤリングと対だった。
「……これ、何の花?」
濃いピンクの、ギザギザした花と、オレンジ色の、風船のような花。
「ああこれは、ナデシコとサンダーソニア」
ピンク色の方がナデシコで、オレンジ色の方が、サンダーソニアというらしい。
「……どっちも知らないや」
聞いたこともない。だが見た目の印象だと、名前は逆の方がしっくりきそうだと思った。
「これから知っていけばいい」
店主はそう言って、片耳だけのイヤリングを差し出してくる。
「好みじゃなかったら、バイトをやめる時に返してよ」
その申し出に、私小さくは頷く。
つけていたピアスを片方外す。シャラン、と音が鳴った。
一瞬躊躇したが、結局そこにつけた。髪を耳にかけて、よく見えるように。
「うん、よく似合ってるんじゃあないかい?」
彼の声の後に、止まっていたクラシックBGMが流れ出す。
止まっていた歯車がゆっくりと動き出すように、小さく、ゆったりと。
「さ、契約書用意しないとねえ」
店主の、どことなくホッとしたような声が、開け放してある店の扉から外に漏れる。その声を、道端に並ぶ金木犀だけが聞いていた。
はてさて、次にこんなミステリアスな店に誘われてくるのは、どんな客様だろうか。
金木犀は楽しみだ、と笑うように身体を揺らした。
閑話 一
「――はい、契約完了」
声と共に押された印鑑の朱が、薄い紙によく映える。
やり取りの間に外は、夜の闇が覆っていた。入り込んでくる空気が、頼りなさげにさわさわと横切り、鳥肌が立つ。
「じゃあ、次。来れる日でいいから店においで」
書類をいくつか渡される。何気なくパラパラと軽く目を通していると、また別の花束を作り出す店主。
「……今度は、ラベンダー?」
紫色のひらひらした花が彼の手元にあった。
店主は「さすがに記憶力は若者だね」と笑いながら言って、あっという間に小さな小さな花束を作り上げる。
「はい、どうぞ~」
買え、とでも言われるのかと身構えていたら、店主はただ笑った。上品な笑みに重なって見えたのは、ずいぶん幼い子供の顔で。
「歓迎の証~」
花を使ったハンドメイドアクセサリー。店のスタッフの証。
言いながら彼も、首元からネックレスを取り出した。それはイヤリングと同じように、二つの花が閉じ込められている。まるで、イヤリングと対だった。
「……これ、何の花?」
濃いピンクの、ギザギザした花と、オレンジ色の、風船のような花。
「ああこれは、ナデシコとサンダーソニア」
ピンク色の方がナデシコで、オレンジ色の方が、サンダーソニアというらしい。
「……どっちも知らないや」
聞いたこともない。だが見た目の印象だと、名前は逆の方がしっくりきそうだと思った。
「これから知っていけばいい」
店主はそう言って、片耳だけのイヤリングを差し出してくる。
「好みじゃなかったら、バイトをやめる時に返してよ」
その申し出に、私小さくは頷く。
つけていたピアスを片方外す。シャラン、と音が鳴った。
一瞬躊躇したが、結局そこにつけた。髪を耳にかけて、よく見えるように。
「うん、よく似合ってるんじゃあないかい?」
彼の声の後に、止まっていたクラシックBGMが流れ出す。
止まっていた歯車がゆっくりと動き出すように、小さく、ゆったりと。
「さ、契約書用意しないとねえ」
店主の、どことなくホッとしたような声が、開け放してある店の扉から外に漏れる。その声を、道端に並ぶ金木犀だけが聞いていた。
はてさて、次にこんなミステリアスな店に誘われてくるのは、どんな客様だろうか。
金木犀は楽しみだ、と笑うように身体を揺らした。
閑話 一
「――はい、契約完了」
声と共に押された印鑑の朱が、薄い紙によく映える。
やり取りの間に外は、夜の闇が覆っていた。入り込んでくる空気が、頼りなさげにさわさわと横切り、鳥肌が立つ。
「じゃあ、次。来れる日でいいから店においで」
書類をいくつか渡される。何気なくパラパラと軽く目を通していると、また別の花束を作り出す店主。
「……今度は、ラベンダー?」
紫色のひらひらした花が彼の手元にあった。
店主は「さすがに記憶力は若者だね」と笑いながら言って、あっという間に小さな小さな花束を作り上げる。
「はい、どうぞ~」