悩む店主が答えを言う前に、私は自分のスマホで検索を開いた。
そこで、はた、と手が止まる。
スマホの画面に映った文字を、二回読み直してから顔を上げ、店主に目をやると、彼は含み笑いを浮かべて言った。ヒントをあげる、と。
「スノードロップの逸話でも有名な話があってね。
昔、恋人を亡くしたケルマっていう女性がいたんだ。彼女は春先に亡くした恋人へ、スノードロップを摘んでお供えした。その都度神様に『彼を返して』と必死に願っていた。
……結局、恋人の彼は戻らないんだけどさ。
でもねえ、不思議なことに、しばらくして彼の肉体は雪のしずくに変化したらしいんだ。ゆっくりと、光に包まれながら。
願いは叶わなかった。命は戻らないものだから。だけど案外神様が彼女を哀れんだのかもしれない、って今もまだ、語り継がれているんだよ。別の方法で、彼女に彼を返した、とね」
――まさに、黄泉がえりの花なのさ。
私の心臓がドクン、と鳴った。
だが、話して聞かされている彼女は首をかしげて、おかしそうに笑う。
「うーん、綺麗だけど現実味ない感じですねえ」
「俺はこういう話が大好きでねえ。美しいとは思わないかい? どんな形でも、救いのある最後」
言うも、眉間に軽くしわをよせて、彼女は「やっぱりわかりませんね」と、言った。
店主はは答えを軽く笑って誤魔化し、紙袋を彼女に渡した。
「まあ君は、それでいい」
すうっと、開け放たれたままの扉から入ってきた風。店内に溜まった甘い香りを持ち上げて、さらっていく。
「ああ、そうだ。その花束、上司さんに渡しても、いいんじゃなあい?」
「え~どうしてですか?」
「最後まで向き合うことも大事なことなんだよ、お嬢さん」
人の心は案外、真っ直ぐな思いに弱いからねえ。
含み笑いを浮かべる店主。結局女性も首を傾げつつ「そんなもんなんですかね?」と言い残して店を出て行った。
出ていく女性からしばらく、目を離せなかった。
店主が別の花束を作り出しても、入ったときは気づかなかった時計の音が気になっても。
「――なんで、」
言葉を詰まらせながら、言う。
「なんで、スノードロップの……渡すときの意味、教えなかったの?」
スノードロップの花言葉の一つ、『希望』。それだけなら儚くて綺麗だ。だが、言い伝えを踏まえた上で贈り物にすれば――。
そこで、はた、と手が止まる。
スマホの画面に映った文字を、二回読み直してから顔を上げ、店主に目をやると、彼は含み笑いを浮かべて言った。ヒントをあげる、と。
「スノードロップの逸話でも有名な話があってね。
昔、恋人を亡くしたケルマっていう女性がいたんだ。彼女は春先に亡くした恋人へ、スノードロップを摘んでお供えした。その都度神様に『彼を返して』と必死に願っていた。
……結局、恋人の彼は戻らないんだけどさ。
でもねえ、不思議なことに、しばらくして彼の肉体は雪のしずくに変化したらしいんだ。ゆっくりと、光に包まれながら。
願いは叶わなかった。命は戻らないものだから。だけど案外神様が彼女を哀れんだのかもしれない、って今もまだ、語り継がれているんだよ。別の方法で、彼女に彼を返した、とね」
――まさに、黄泉がえりの花なのさ。
私の心臓がドクン、と鳴った。
だが、話して聞かされている彼女は首をかしげて、おかしそうに笑う。
「うーん、綺麗だけど現実味ない感じですねえ」
「俺はこういう話が大好きでねえ。美しいとは思わないかい? どんな形でも、救いのある最後」
言うも、眉間に軽くしわをよせて、彼女は「やっぱりわかりませんね」と、言った。
店主はは答えを軽く笑って誤魔化し、紙袋を彼女に渡した。
「まあ君は、それでいい」
すうっと、開け放たれたままの扉から入ってきた風。店内に溜まった甘い香りを持ち上げて、さらっていく。
「ああ、そうだ。その花束、上司さんに渡しても、いいんじゃなあい?」
「え~どうしてですか?」
「最後まで向き合うことも大事なことなんだよ、お嬢さん」
人の心は案外、真っ直ぐな思いに弱いからねえ。
含み笑いを浮かべる店主。結局女性も首を傾げつつ「そんなもんなんですかね?」と言い残して店を出て行った。
出ていく女性からしばらく、目を離せなかった。
店主が別の花束を作り出しても、入ったときは気づかなかった時計の音が気になっても。
「――なんで、」
言葉を詰まらせながら、言う。
「なんで、スノードロップの……渡すときの意味、教えなかったの?」
スノードロップの花言葉の一つ、『希望』。それだけなら儚くて綺麗だ。だが、言い伝えを踏まえた上で贈り物にすれば――。