笑った店主の瞳はひどく、輝いて見えた。
彼女は、得体のしれないものを前にしたような顔を隠すこともせず、ただそこに立っている。
 一泊置いて、また名も知らないBGMが、ようやく目が覚めたように店内に流れ出した。
瞬間彼が顔を上げる。
「そうだ! 魅力的なお嬢さん。今日は花束、買っていってくれるよね?」
「……え?」
 ぽかん、とする彼女に、店主は置いていたミニブーケを持ち上げて言った。
「この間気に入っていただろう、スノードロップ。そのミニブーケさっき作ったんだ。かなりの力作でねえ」
 どうだい? と自慢げに差し出されたそれは、少し濡れていて、みずみずしく光を反射している。
「あの、白くて可愛い花……ですか」
 彼女は拍子抜けしたように、ゆっくりと肩の力を抜いて言った。確かに白くて小さなその花は、可愛らしい物だろう。
だが私の目には少し、不気味に映る。
 店主は頷く。彼女は差し出されたそれを受け取って、そっと花びらに触れて微笑んだ。
 しばらくして、スノードロップに和んだらしい彼女の目が、店主の前にあるはーバリウムに移る。
「……ハーバリウム、気になるなら買えばいいんじゃないですか?」
 じいっと見つめる彼女に、そっと助言でもするかのように言った。
店主は間髪入れずに、「ナイスタイミングだ、小種ちゃん」とこちらにウィンクする。
 しばらくハーバリウムを見つめていた彼女は、ついに諦めたように笑って、「それじゃあ、そのハーバリウムも」と言った。
 店主がレジをいじる音と、店を流れるクラシックが重なる。
「――スノードロップの花言葉。魅力的なお嬢さんは、知ってるかい?」
 紙袋にしまわれたハーバリウムを前に、彼女は、手を止めて首を傾げた。長財布についているキーホルダーがちらちらと揺れる。
「いえ……知らないですね」
 店主は、だよね、と笑いつつ、綺麗なピースサインを作る。
「『希望』と『慰め』の二つ。……なんだけど」
 そこで一度話を切った。お金を受け取って、先に会計を終わらせる。ガチャン、とレジが閉まる音が響く。
「――実はね、この花。贈り物にすると、ちょっとだけ意味が変わるんだ」
 お釣りとレシートを差し出しながら、意味深に笑った。彼女は困ったように「どう変わるんです?」と問うた。
 彼はゆっくりとあごに手を当てる。丸眼鏡がずり落ちかけるが、すぐ片手で抑えて。