いくらか経ったころ。店主が言った。え、と思わず振り返る私と違って、女性はド直球に言葉を吐いた店主を、キッと睨みつける。
だが彼は気にした様子もなく、続けざまに言った。まるで彼女を煽るように。
「可哀そうに、枯れかけじゃあないか」
言われた彼女はひどく傷ついたように目を見開いて、でもすぐに否定するように「だから、わかったように言わないでっ」と言葉を吐きかけた。
それを彼は、ただ笑って流したのだ。
「気に病むことじゃないさ。君は魅力的なんだから。出会いなんていくらでもあるし、男はこの世界に山ほどいる。恋する気持ちもその内冷めるもんだ。
……ああ、そうだ。俺とお試しに付き合ってみるかい? 顔だったら負けないよ~」
盛大に言ってのけた。
普通の人なら躊躇するような言葉を、淡々と、顔色一つ変えずに。
――もしかしたら、最後は割と本気だったのかもしれない。
ただ、私には店主の瞳に漂う感情が、まったく逆の色をしていることに、ぞっとする。
「うるさい! 何も知らないくせに、冗談よせって言ったじゃないっ。みんな一緒よ、みんな、私をバカにして」
叫ぶように、今にも泣き出しそうに、彼女は言い捨てた。揺れる瞳。ぐっと、眉間に寄った皺は、涙をこらえているらしかった。
私は、ただ困惑して二人を見ているしかできない。これは、未熟な私が関与できるほど、簡単な話ではないと直感的にわかる。
店主は一本、ドライフラワーのスイートピーを取り上げる。片手にはハサミを用意して。
「――うーん、わっかんないねえ」
バッサリと、花の部分を真っ二つに切り裂いた。音もなく、切られた花のところから、花びらが一枚、ひらひらと落ちる。
「まあ、わかるわけがないんだよねえ。俺は君じゃないんだもの。……そりゃあ、わかってあげたいものだけどね。
ここは花屋で君は客。俺にできるのは本来、花を売ることだけなんだ。他人を慰めることじゃあないんだよ」
淡々と言葉を吐きながら、スイートピーが原型を留めなくなるまで、ずっと花を切り続けていた。
「……それにね、女性を花に例えるのは、俺の前ではご法度だよ」
ハサミを置いた。カタン、と冷たく響く音。
「彼らはね、どんな形でも死ぬことはない。枯れても、名は、種は、その根は、生きているものだから。輪廻ってやつかな。……だけど、人は違うだろう?」
だが彼は気にした様子もなく、続けざまに言った。まるで彼女を煽るように。
「可哀そうに、枯れかけじゃあないか」
言われた彼女はひどく傷ついたように目を見開いて、でもすぐに否定するように「だから、わかったように言わないでっ」と言葉を吐きかけた。
それを彼は、ただ笑って流したのだ。
「気に病むことじゃないさ。君は魅力的なんだから。出会いなんていくらでもあるし、男はこの世界に山ほどいる。恋する気持ちもその内冷めるもんだ。
……ああ、そうだ。俺とお試しに付き合ってみるかい? 顔だったら負けないよ~」
盛大に言ってのけた。
普通の人なら躊躇するような言葉を、淡々と、顔色一つ変えずに。
――もしかしたら、最後は割と本気だったのかもしれない。
ただ、私には店主の瞳に漂う感情が、まったく逆の色をしていることに、ぞっとする。
「うるさい! 何も知らないくせに、冗談よせって言ったじゃないっ。みんな一緒よ、みんな、私をバカにして」
叫ぶように、今にも泣き出しそうに、彼女は言い捨てた。揺れる瞳。ぐっと、眉間に寄った皺は、涙をこらえているらしかった。
私は、ただ困惑して二人を見ているしかできない。これは、未熟な私が関与できるほど、簡単な話ではないと直感的にわかる。
店主は一本、ドライフラワーのスイートピーを取り上げる。片手にはハサミを用意して。
「――うーん、わっかんないねえ」
バッサリと、花の部分を真っ二つに切り裂いた。音もなく、切られた花のところから、花びらが一枚、ひらひらと落ちる。
「まあ、わかるわけがないんだよねえ。俺は君じゃないんだもの。……そりゃあ、わかってあげたいものだけどね。
ここは花屋で君は客。俺にできるのは本来、花を売ることだけなんだ。他人を慰めることじゃあないんだよ」
淡々と言葉を吐きながら、スイートピーが原型を留めなくなるまで、ずっと花を切り続けていた。
「……それにね、女性を花に例えるのは、俺の前ではご法度だよ」
ハサミを置いた。カタン、と冷たく響く音。
「彼らはね、どんな形でも死ぬことはない。枯れても、名は、種は、その根は、生きているものだから。輪廻ってやつかな。……だけど、人は違うだろう?」