「開かない花びらも、いつか必ず咲いてしまう。それもまたきっと醜く、美しいんだろうけど。――切ないもんだねえ」
広げていた花をそっと手に取って言った。
よくわからない不気味さを感じて、鳥肌が立つ腕をそっとさする。
だけどやはり鈍いらしい彼女は、その言葉に苦笑する。
「店主さん、変わってる、って言われません?」
からかうように言われた店主は、「ああ、よく言われるよ」と笑った。
「……大人って、めんどいんだね」
そのやり取りについ口をついて出た言葉。
思いの外大きく響いてしまった声に、彼女は「そうだね、めんどいね」と繰り返し、店主は「咲く花も多くて、面白いけどねえ」とよくわからないことをまた、言っていた。
ただ、彼の瞳は変わらずに冷気を抱えているようだった。
「あ、この花可愛い!」
彼女が突然声を上げた。
私は離れて、店主の作業している手元を遠くから見ていたが、彼女の声に振り返る。
店主は手を止めて言った。
「おお、流石! センスいいね。それスノードロップ」と笑った顔は、どこか悪戯(いたずら)だ。
スノードロップ、と反芻している彼女は、口元に手を当てて笑う。
「なんだか飴みたい。美味しそう」
言いながら、つん、と花びらを指先でつついた。スノードロップはくすぐったそうに揺れる。
確かにドロップと言えば飴が思い浮かぶ。私もそうだ。
だが、店主は「実はドロップ、って直訳すると飴じゃないんだよねえ」と指摘した。
驚いたように店主を見る彼女に、彼は続けて説明する。
「ドロップは英語で、落下する、とか、しずく、って意味なんだ。だから、スノードロップは、雪のしずくになるの」
面白いでしょ、と微笑む店主。女性は「雪のしずく……」と不思議そうに花を眺めていた。スノードロップを見る目が少し、真剣なものに変わっている。
私も気になって、彼女の裏からその花をのぞき見た。
雪のしずく、というだけあって、美しい白い花がしずくのように垂れていて、確かに可愛らしい花だった。
……可愛らしい、というより、可憐かもしれない。
店主が人差し指を立てて軽く花の紹介をする。
「雪のそばに咲く花でね。ネットで写真を調べると、よく雪と一緒に映っているのがまた綺麗なんだ~。白と緑のコントラスト、っていうのかな。……俺もまあ、好き」
広げていた花をそっと手に取って言った。
よくわからない不気味さを感じて、鳥肌が立つ腕をそっとさする。
だけどやはり鈍いらしい彼女は、その言葉に苦笑する。
「店主さん、変わってる、って言われません?」
からかうように言われた店主は、「ああ、よく言われるよ」と笑った。
「……大人って、めんどいんだね」
そのやり取りについ口をついて出た言葉。
思いの外大きく響いてしまった声に、彼女は「そうだね、めんどいね」と繰り返し、店主は「咲く花も多くて、面白いけどねえ」とよくわからないことをまた、言っていた。
ただ、彼の瞳は変わらずに冷気を抱えているようだった。
「あ、この花可愛い!」
彼女が突然声を上げた。
私は離れて、店主の作業している手元を遠くから見ていたが、彼女の声に振り返る。
店主は手を止めて言った。
「おお、流石! センスいいね。それスノードロップ」と笑った顔は、どこか悪戯(いたずら)だ。
スノードロップ、と反芻している彼女は、口元に手を当てて笑う。
「なんだか飴みたい。美味しそう」
言いながら、つん、と花びらを指先でつついた。スノードロップはくすぐったそうに揺れる。
確かにドロップと言えば飴が思い浮かぶ。私もそうだ。
だが、店主は「実はドロップ、って直訳すると飴じゃないんだよねえ」と指摘した。
驚いたように店主を見る彼女に、彼は続けて説明する。
「ドロップは英語で、落下する、とか、しずく、って意味なんだ。だから、スノードロップは、雪のしずくになるの」
面白いでしょ、と微笑む店主。女性は「雪のしずく……」と不思議そうに花を眺めていた。スノードロップを見る目が少し、真剣なものに変わっている。
私も気になって、彼女の裏からその花をのぞき見た。
雪のしずく、というだけあって、美しい白い花がしずくのように垂れていて、確かに可愛らしい花だった。
……可愛らしい、というより、可憐かもしれない。
店主が人差し指を立てて軽く花の紹介をする。
「雪のそばに咲く花でね。ネットで写真を調べると、よく雪と一緒に映っているのがまた綺麗なんだ~。白と緑のコントラスト、っていうのかな。……俺もまあ、好き」