「ありがとう。でも、それ以外はまだまだだから、がんばらないと」
「茜は上達が早いよってに、すぐ一人前になれる。子どものころから、おじいちゃんのマネをして和菓子を作ってたおかげやなぁ」
「あれはおままごと気分だったから……」

 昔から厨房に出入りして、祖父が与えてくれた〝こなし〟で動物の形を作ったり、あんこを丸めたりしていた。祖父も、『こうするともっとウサギっぽくなる』とか『ここにはこうやって切れ込みを入れるといい』とアドバイスしてくれた。お店のことで忙しい祖父と〝遊んでもらっている〟と感じられる貴重な時間だった。

「なんでも最初は遊びから始まるもんや。勉強とか楽器とか、スポーツやてみんなそうやろ?」
「言われてみれば、そうかも」

 まだ両親が生きていたころに習っていたピアノも私は遊び半分だったけど、そこからプロを目指す人だっているんだから。

 祖父との宝物のようなセピア色のあの時間が、今の私につながっているんだったらとてもうれしい。

「明日はこのあんこでお菓子を作るしなぁ。茜とわしと、ふたりで仕上げたお菓子が店に並ぶんやで」
「そっか。初めての共同作業だね」
「それはちと意味が違うんやないか?」

 そう言ってふたりで笑い合う。

 明日はきっと、あんこを使ったお菓子が目の前で買われるたびにドキドキしてしまうだろう。

 いつものあんこと同じくらいおいしいと思ってもらえますように。

 私は、明日が早く来てほしいような、でもやっぱりもう少し心の準備が欲しいような、そわそわした気持ちでお鍋の蓋を閉めた。