小豆を吹きこぼしてから砂糖を入れる。粒をつぶさず、つやつやのあんになるように、慎重にかき混ぜていく。

 あんこも、どら焼きも、ようかんも、祖父の味は全部覚えている。ずっと祖父の和菓子ばかり食べてきたから。

 考える前に、感覚が祖父の味を追っていく。集中すると味覚がどんどん研ぎ澄まされて、周りの音が遠くに聞こえるのを感じた。

 あんこ炊きでいちばん大変なのは最後の練り上げだ。一時間以上も、炊き上げたあんをしゃもじでかき混ぜなければいけない。力がいるだけでなく、繊細さも必要な作業である。

 つぶあんを仕上げるには五時間以上かかる。気づけばお昼を過ぎ、その間に店は開店時間になったが、いつもだったら私がやるはずの売り子としての仕事は祖父たちが代わってくれた。

 鍋の中のあんは、つやつやと輝いている。粒もつぶれていないし、甘さもちょうどよさそう。

「……できました」

 ふう、と額の汗を手の甲でぬぐって、祖父のために鍋の前を空ける。

「どれどれ」

 スプーンを鍋に沈め、あつあつのあんを口に運んだ祖父は、目を見開いた。

「……びっくりやなあ。一瞬、自分が炊いたあんこかと思うたでぇ」
「ほんとに?」
「ああ。あんこ作りに関しては、茜はもう弟子たちを抜いてしもうたかもしれへんなあ」

 祖父は褒め言葉をしみじみとつぶやく。こんなふうに言ってもらえるのは初めてだから、うれしくて体温が上がる。