和菓子店の朝は早い。今の時期はまだいいけれど、冬になると寒くて手が思うように動かないときもある。あんこは六時から炊き始めるので、祖父と小倉さんたちは私より一時間以上も前に来て準備を始めている。そのぶん店じまいや帳簿を書くのは私が担当して、夕方長めに働くことにしている。

 いつもだったら祖父がすでにあんこを炊き始めているはずなのに鍋が火にかかっておらず、あれっと首を傾げる。

「茜。こっちにおいない」
「はい」

 祖父に鍋の前で手招きされ、私は不審に思いながらも言われた通りにして祖父の言葉を待った。

「今日は茜があんこを炊いてみい」
「えっ……いいの?」

 私は驚いて、目を見開いてしまった。

 あんこは『店の顔』と評されるほど大事な部分である。今まで練習であんこを炊かせてもらったことはあるけれど、お客様に出すものを作ってみろと指示されたのは初めてだ。

「もうそろそろ、いい頃合いやと思う」

 祖父は職人の顔になってうなずく。

「はい。……やらせてください」

 私も表情と気持ちを引き締めて返事をした。