食事が終わって洗い物をしながら、祖父の言葉を考える。

 恋愛については奥手で学生時代も好きな人はいなかったし、お弟子さんたちをそういう目で見たこともない。小学生のころはよく遊んでくれたし、私にとってはお兄ちゃん代わりという感覚だったから。

 祖父がこんなことを口にするようになったのも、私が十九歳になったからなのかな、と思う。祖父と祖母は二十歳で結婚したらしいから、まったく恋人ができない私が心配になったのかもしれない。

 今まで和菓子のことに夢中で恋愛に意識を向けてこなかった。それでいいと開き直っていたけれど、祖父が心配するならこれからは考えたほうがいいのだろうか……。といっても、急に好きな人ができるわけじゃないけれど。

 ひととおりの家事を終え、二階の住居から一階の店舗に下りてゆく。厨房に続く扉を開ける前に着物の乱れを直した。

「おはようございます、小倉さん。今日もよろしくお願いします」

 厨房に入ると、背の高いがっしりとした姿が見えた。坊主頭で強面の男性は小倉さんだ。白い板前服と板前帽には、『和菓子くりはら』の刺繍が入っている。

「お嬢さん。おはようございます」

 口角を上げただけの笑顔も、低くて抑揚のない声も、この人の生真面目な性格を表している。頭が硬くて融通がきかないところはあるけれど、みんなのリーダーで頼りになる人物なのだ。

「おはようさん」

 続いて、ぽっちゃり体型で温和な安西さん、一休さんのような見た目に眼鏡をかけている佐藤さんも声をかけてくれた。

 先に店に下りていた祖父は、すでに仕込みを始めている。

 現在、午前七時。十時のオープンまで、あと三時間だ。小倉さんたちは器用に手を動かして、大福や鹿ノ子を作っている。