「みんな、私が小学生のときからうちで働いているし……。そんなふうに考えたことはないかな」

 そう答えて、お味噌汁に口をつける。

「そおか?」

 祖父は少しがっかりしたようだった。

「茜。けどな、もしおじいちゃんが死んだらな、小倉くんたちと協力して仲よく店をやっていくんやで」

 唐突な言葉に、焼き魚をほぐす手が止まる。

「なんでそんなこと言うの……? おじいちゃん、どこか悪いの?」

 たずねながら、手元が震える。

「どこも悪いことあらへん。ただな、もうわしも歳やし、茜より早く死んでしまうのは確実やから、心配でしようがあらへんねん」

 祖父は私より先に死んでしまう。それは私が祖父に引き取られたときからずっと目の前に横たわっている不安で、見ないようにしていた問題でもあった。

 絶対に起こることなのに、遠くて違う世界のように思える。そんな日が来ると想像するだけで、呼吸さえもぎこちなくなるくらい怖い。

「それは、そうだけど。でも」
「弟子のだれかと結婚しろとか、強制するつもりはないんや。ただそうなったときは小倉くんたちを頼ってほしいってことを、覚えておいてほしいだけや」

 そんな遺言みたいなこと、言わないでほしい。

 でも、ここで私が深刻な顔をしたら、この不安が現実のものになってしまう気がして、私は無理やり笑顔を作った。

「……わかった。そのときはみんなでがんばるね。でも、もっと長生きしてくれなきゃ嫌だよ」
「もっとも。そう簡単に茜を置いて逝ったりせえへん」
「本当だよ?」

 まだ成人式の晴れ着姿だって見せていないし、恋人すらいないけど、いつかは花嫁姿だって見せたい。祖父と腕を組んでバージンロードを歩けたら、どんなに幸せだろう。

「おじいちゃんが変なこと言うから、びっくりしてごはんが喉を通らなくなっちゃったよ」
「すまんすまん。ごはん時(どき)にする話じゃあらへんかったかな」
「そうだよ、もう」

 私は笑いながら祖父の肩を叩く。