初めてこの祇園――おじいちゃんの店に足を踏み入れたとき。

『この素敵な古都に恥じないような、〝しゃん〟とした人間になろう、ちゃんとおじいちゃんの言うことをきいていい子でいよう』

 そう子供心ながらに決心した。そうしたら、町が私を受け入れてくれるような気がしたのだ。その気持ちは今も変わっていない。

 小学三年生のとき両親を事故で一度に失った私は、父親の仕事の都合で住んでいた茨城から、父の故郷であり祖父が住んでいる京都に引っ越した。

 数回しか会ったことのない私を祖父が引き取って育ててくれたのだ。京都の人は冷たい、と教えられていたけれど、祖父も周りの人もみんな優しくしてくれた。

 それから十年がたち、今はもうすっかりここが私の〝故郷〟になっている。
 祖父の店を継ぎたくて、中学生からずっと店番のお手伝いをしてきたし、この春に高校を卒業してからは和菓子作りも少しずつ教えてもらっている。

「できたよ、おじいちゃん。ちゃぶ台の上、片づけてね」
「おお、今日もうまそうだ」

 家事は、祖父の役に立ちたくて自主的に覚えた。祖母と早くに死別した祖父もひととおりの家事はできるが、もう歳だし無理をしてほしくない。そんなこんなで、高校生になったころには家事の一切を私が取り仕切っていた。