月なんて、ここ一週間まったく見ていなかったな。

 箪笥の上に置いた祖父の遺影にも、月の光がやわらかく落ちている。

 おじいちゃんがいなくなって、自分の時間が止まってしまったような気持ちになったけれど、世界は今まで通り回っている。お腹がすけばごはんを食べるし、お風呂にも入るし、月だって丸くなる。

 なんだか現実離れした出来事に遭遇したせいで、かえって現実を受け入れられたみたいだ。

 大事な人を失っても、なにも変わらず時間は流れてゆく。光を反射した祖父の写真に『がんばれ』って言われているような気がした。

 私、がんばるよ、おじいちゃん。ちゃんと食べて、眠って、ここで和菓子を作って生きてゆく。そうしたらいつか、お店を取り戻せる日だって来るかもしれない。

 家もお店もあきらめないでいよう。そう決意してお布団に入ると、初めての場所だというのに驚くほどすとんと、私は眠りに落ちていた。