ショーケースの中のお菓子を見つめる。このキレイなお菓子たちがおいしくなったところを見てみたくないと言ったら嘘になる。

 技術は足りないけれど和菓子の味には詳しい私と、技術だけがあって味オンチの伊吹さん。ふたりでがんばれば、なんとかなるんじゃないだろうか。

 なにより伊吹さんは私を助けてくれた。世界中でひとりぼっちになってしまったような気持ちのときに、私を必要だと言ってくれた。

 覚悟を決めて私は椅子から立ち上がり伊吹さんと向き合った。

「……わかりました。まずは店舗の掃除から始めましょう。そのあと、基本的な和菓子の作り方を覚えてもらいます。ちゃんとした商品が並べられるようになるまで開店はおあずけです。それでいいですか?」
「ああ」

 えらそうな口調になってしまったことが不安で表情をうかがうと、伊吹さんはうれしそうに微笑んでいた。

 ひんやりして少し怖かった雰囲気がやわらぐ。笑うと少年のような顔になるのが意外で、目が離せなかった。

「……どうした」
「すみません、なんでもないです」

 あわてて目を逸らし、首を横に振る。

 今日はもう夕方だからということで、本格的な作業開始は明日からとなった。

 二階の住居を使っていいと言われ荷物を運んだが、茶の間も、ふたつある和室も、使われている形跡がなかった。