「いただきます」

 手を合わせ、半分に切った豆大福を口に入れた瞬間、脳がフリーズした。

「……!?」

 なんなのだ、この味は。甘すぎて、渋くて、しょっぱい。しかもあんこは硬すぎるし、餅の部分はやわらかすぎて、もはや餅ではなかった。

 ごほごほとむせていると、伊吹さんが納得したようにうなずく。

「ほう。やはり、まずいのだな」

 この人、まずいと知っていて私に味見させたの?

「どこがまずいのか教えろ」
「まず、あんこの味が……。甘すぎるし、えぐみがすごいです。小豆を煮るときに渋切りしましたか?」
「渋切り?」

 首をかしげられて、めまいがした。
 小豆を何度も新しい水で煮て渋みを取ることも知らないなんて。

「伊吹さん。和菓子の作り方、どこで習ったんですか?」
「職人の手元を見て覚えた。勝手に食べるわけにいかなかったから、味は記憶できなかった」

 言っていることが理解できない。
 つまり伊吹さんは自己流で和菓子の作り方を学んで、知識がなにもないまま和菓子店を開こうとしたってこと?

「だからお前を呼んだんだ。なんとかしてくれ」

 伊吹さんの顔は真剣だった。遊びでやっているわけではなさそうだ。
 でも、私になんとかできるだろうか。まだ一度も自分で作ったお菓子を店頭に出したこともないのに。

「頼む。お前だけが頼りなんだ」

 言葉に詰まる。たしかに、こんな特殊な状態の伊吹さんを弟子入りさせてくれるお店はなさそうだ。