「え……。う、うそ……」

 飛びかかるようにして、正面に鎮座しているショーケースに近寄る。
 その中には、華やかで繊細なお菓子たちが芸術作品のように並んでいた。

「なにこれ。すごくキレイ……」

 ダリアの花びらのように細かなそぼろが施されたきんとん。〝山栗〟は栗のツヤ感までリアルで、練り切りにハサミを入れて菊の花弁を表現する〝はさみ菊〟も精緻だった。

「気に入ったか?」
「は、はい。この和菓子、伊吹さんが作ったんですか?」

 私は、ショーケースの中のお菓子に目が釘付けのままたずねる。

「ああ」
「す、すごいです。こんなガラス細工みたいなお菓子、見たことない……」
「手先は器用だからな」

 器用とか、そういうレベルの出来ではないと思う。これはもう才能だ。

「自分で食べてもよくわからないから、味見をしてくれないか」
「はい、もちろん」

 こんなすごいお菓子を作る人だけあって向上心が高いんだな。おいしいに決まってるのに、自分で判断しないだなんて。

 華やかな上生菓子も食べてみたかったが、味を見るには定番のお菓子がいちばんだと、ショーケースから豆大福を手に取る。

 店舗の半分は、喫茶スペースになっていた。二席あって、小さな木製テーブルに椅子が二脚添えられている。まだ拭かれていないであろう椅子に腰かけて、ショルダーバッグから懐紙を出し、その上に豆大福を置く。

 束で使えばお皿代わりになる懐紙と、お菓子用の楊子である黒文字は、いつも持ち歩いている必須アイテムだ。