立ち去りかけて、大事な質問をしていなかったことにふと気づいた。
「あ、あの、お名前を聞いていませんでした。私、栗原茜です」
彼はちょっと迷ってから簡潔に告げた。
「伊吹だ」
「伊吹、さん。あの……」
名字なのか名前なのか聞こうとして口を開くと、伊吹さんは眉をひそめた。
「とっとと行ってこい。遅いと置いていくぞ」
「は、はい」
前言撤回。心配してくれたように見えたのは気のせいだったようだ。でも、感情がはっきりと顔に出るのはありがたい。小倉さんみたいに冷酷な面をずっと隠してきた人よりは信用できる。
私が店の前に戻ると、まだ外を見張っていたらしい小倉さんと目が合った。
「荷物を取りに来ただけですから。すぐに出ていきます」
なにかを言おうとした彼をさえぎって、裏口から二階に上がる。
大きなボストンバッグと小さなショルダーバッグの中に、衣服やお財布などを詰め込んでいく。もともと持ち物が少ないので時間はかからなかった。
「あ、あの、お名前を聞いていませんでした。私、栗原茜です」
彼はちょっと迷ってから簡潔に告げた。
「伊吹だ」
「伊吹、さん。あの……」
名字なのか名前なのか聞こうとして口を開くと、伊吹さんは眉をひそめた。
「とっとと行ってこい。遅いと置いていくぞ」
「は、はい」
前言撤回。心配してくれたように見えたのは気のせいだったようだ。でも、感情がはっきりと顔に出るのはありがたい。小倉さんみたいに冷酷な面をずっと隠してきた人よりは信用できる。
私が店の前に戻ると、まだ外を見張っていたらしい小倉さんと目が合った。
「荷物を取りに来ただけですから。すぐに出ていきます」
なにかを言おうとした彼をさえぎって、裏口から二階に上がる。
大きなボストンバッグと小さなショルダーバッグの中に、衣服やお財布などを詰め込んでいく。もともと持ち物が少ないので時間はかからなかった。