「ど、どうしてですか? お店も家も、ずっとおじいちゃんと一緒に暮らしてきた思い出の場所で……。それに出ていけと言われても、行く場所なんて……」

 唯一の身内だった祖父が亡くなったことで、私には身を寄せる場所もなくなったのに。

 そして、唐突に理解する。

 ああ、そうか。私、ひとりぼっちになっちゃったんだ。

 両親を亡くしたときは、おじいちゃんがいてくれた。おじいちゃんが亡くなったときも、店の存在に守られていた。でも、その両方が失われるのだと実感したとき、初めて〝孤独〟の意味がわかった。

 こんなに、自分の中にぽっかり穴が空くようなものなんだ。怖くてたまらなくて、なにかにすがらないと立っていられなくなるものだったなんて。

 足下が急に不安定になる。ぐらぐらとめまいが起きて、私は地面に膝をついた。

「……大丈夫ですか?」

 うつむいた頭の上に、小倉さんの冷ややかな声が降ってくる。
 なにもかもを奪うつもりなら、そんな表面だけの気遣いの言葉なんて欲しくなかった。

「あなたにそんなこと、言われたくない……っ」

 かすれた声は、ほとんど悲鳴だった。

「だいぶショックを受けているみたいですね。でも大丈夫、俺は優しいから、ただお嬢さんを放り出すなんてことしません」
「……どういうことですか」

 急におだやかになった口調に、うすら寒いものを感じる。

「条件があります。それをのんでもらえるなら今まで通りこの家に住んでいいし、店でも従業員として雇ってあげます」

 小倉さんは、目だけが笑っていない能面のような笑みを顔に貼りつけたままだった。