「このたびは、本当にいろいろ、ありがとうございました……」

 葬儀のことなんて右も左もわからない私に代わって各所に連絡を入れてくれた小倉さん。一一九番をしたあと小倉さんに電話をしたら、『お嬢さん、落ち着いて。すぐそちらに向かいますから』とすぐに駆けつけてくれた。

 小倉さんがいなかったら、こんなにしっかりと祖父を送ってあげられなかったかもしれない。

「そんなこと……。俺も師匠には、よくしてもらいましたし」

 小倉さんは、軽く頭を振って目線を落とす。

「……はい」

 自分が死んだら、弟子たちを頼って店を守ってほしい。亡くなる前日の祖父の言葉が脳裏によみがえった。

『すまんすまん』と頭をかいていたのに、本当に遺言になっちゃったよ、おじいちゃん。

「あの、小倉さん。お店のことなんですけど……」

 今、お店は臨時休業にしている。でも初七日も終わったし、いつまでも閉めておくわけにはいかないだろう。営業再開のことを詳しく相談しようと思って話を振ったのだけど。

「ああ、そのことなんですけど。さっそく明日から開店させようと思うてます」

 いつものように口角だけ上げて微笑んで、小倉さんはさらっと告げた。

「え……? あ、そうなんですか?」

 どうして『開店させたいんですがどうですか?』ではなく、すでに確定している口調なんだろう。

「はい。安西と佐藤にも連絡しておきました」
「あ……。ご連絡、ありがとうございます……」

 こちらが戸惑っていても、彼の表情は変わらない。