お通夜と、告別式。そして初七日の供養を終えてもまだ、私の頭には霞がかかっていた。

 喪服のまま、仰向けになって畳に寝転ぶ。ゆっくり視線を上げると、狭い茶の間に設置した祭壇がさかさまに目に入った。

 遺影で笑っている祖父も、位牌に書かれた戒名も、私の知っているおじいちゃんとつながらない。あれだけ葬儀でも火葬場でも現実を突きつけられたのに、いまだに『なにかの間違いだ。きっと夢だ』と疑ってしまう自分がいた。そんなわけないって、わかっているのに。

 祖父を検死したお医者さんが『くも膜下出血で、ほとんど苦しまなかったと思いますよ』となぐさめるように言ってくれた。それはおじいちゃんにとってはよかったことなのかな。だけど私はまだ、それが救いとは思えなかった。

「そう簡単に逝かないって、約束したのに……っ」

 おじいちゃんに褒めてもらったあんこも、和菓子にできずじまいだった。私の作ったあんこが祖父の手でお菓子になるのを、あんなに楽しみにしていたのに。

 握りしめた手のひらに爪が食い込む。じわりと涙がにじんできた、そのとき。

 裏口玄関のチャイムがぴんぽーんと鳴った。

「お嬢さん。大丈夫ですか」
「小倉さん……」

 下に下りてみれば、そこに立っていたのは先ほどの初七日にも出席してくれた小倉さんだった。