次の日の朝。茶の間に入ると、いつも私より先に起きているはずの祖父の姿が見えなかった。

 寝坊しているのかな、珍しい。

 おかしいなとは思いながらも、朝食ができるまでは寝かせておいてあげようと料理の準備を始める。

「おじいちゃん、起きてる?」

 ネギ入りの卵焼きができあがったタイミングで、おじいちゃんの寝室の襖をぼすぼすと叩いた。返事はない。

「おじいちゃん? まだ寝てるの……?」

 そろそろと襖を開けて目に入ったのはきっちり敷かれた布団と、横になったままの祖父の姿。

「おじいちゃん、もう朝ごはんだよ。起きて」

 枕元に座って祖父の肩を揺さぶる。でも、閉じられたまぶたもまつげも、ぴくりとも動かない。

「……おじいちゃん?」

 不審に思って頬に触れると、冷たかった。

「……っ!」

 声にならない声が空気を揺らす。

「お、おじいちゃん! おじいちゃんっ……!」

 必死で布団越しに祖父の身体を揺らすけれど、芯が冷えた頭の中ではわかっていた。祖父はもう、その命の灯火を消してしまったんだって。

「おじいちゃん……」

 呆然とし、動かない祖父の表情から目を離せないまま、その場にへたり込む。

 こういうときって、どうしたらいいんだっけ。救急車を呼ぶ? それとも、警察?

 はぁはぁとあえぐように息をして、ガタガタと震える手で携帯電話を操作する。

 一一九番にかけ、救急隊員の人になにかを質問されて、いくつか返したことは記憶している。でも、そのあとのことは、そこに私が存在していたか疑うほどほとんど覚えていない――。