「今夜はあまり遅くなるようでしたら、お泊まり願おうかと思うていたのですが、あまり長くお引き留めしても申し訳なく……」

余りの長居に、ついに義母が動いた。

義父の部屋に押し入り、どうするつもりなのかと問いただす。

一悶着した後、結局客人たちは帰宅の途についた。

「また来ます」

最後にそう言って笑った鶴丸の顔を、きっと一生忘れない。

慌ただしい見送りを済ませて、片付けに戻ろうとした私の袖を晋太郎さんは引きとめた。

「なんですか?」

「いえ。とても可愛らしいお方でしたね」

「誰がです?」

その人は、明らかにムッとした表情でうつむいた。

「最後にあなたが、ご挨拶した人です」

「武市どのですか?」

「えぇ」

晋太郎さんからは、ほんのりと酒の匂いがする。

「まぁ、酔うておられるのですか?」

「少し」

片付けの続きをしようと歩き出す。

後ろから伸びてきた腕がぎゅっと肩に回った。

「武市どのとは楽しそうに話しておられたのに、どうして私には、そのようにしてくれないのです」

「は? 何をおっしゃっているんですか」

「志乃さんは……、子供が出来たら、男の子がよいですか、それとも女の子の方がよいですか?」

「えぇ? んー、どちらもほしいです」

「さようでございますか」

肩にのっているその人自身の、体が重い。

「あの、ちょっと晋太郎さん?」

「んー……」

「お、重たいので離れてください。これでは片付けが進みません」

かかる息が酒臭い。

廊下で義父の呼ぶ声が聞こえた。

「父上! 今日はもう、おしまいでよろしいでしょうが! そちらには散々付き合ったので、もう行きませんよ!」

突然、目の前の障子がバンと開いた。

お義父さまだ。

慌てて晋太郎さんの腕をほどこうとしても、それは背中からぎゅっと抱きしめたまま、振りほどけない。

「晋太郎、いいから来なさい」

「お断り申し上げます。今宵はもうすでに、志乃さんとお約束をしました」

いつもは穏やかなお義父さまの目が、ギロリと私をにらむ。

「志乃さんには申し訳ないが、そういうわけにはいかぬ。晋太郎。いいから来なさい」

珍しい。

お義父さまの気迫に追われ、この人は実に盛大なため息をついた。

いやいや腕をほどく。

「出来れば……待っていてください。いや、やっぱ寝ないで待ってて。絶対。早く戻れるようにします」

いつものように寝床を整え、その人の帰りを待った。

お酒が入っていたとはいえ、珍しいその人のあんな言葉に、少しドキドキしている。

秋の虫の音に合奏に紛れて、軌道を進む月の音まで聞こえてきそうな夜だ。

いつまでたっても、その人の戻ってくる様子はない。

ついつい布団に横になる。