金貨1枚に銀貨3枚、日本円にしたら十三万円。一日でこれは大成功と言えるのではないだろうか? もちろんマジックマッシュルームが見つけられたからなのだが、幸先良いスタートとなった。
 俺はホクホクしながら帰り道を急ぐ。ポケットの中で揺れる金貨と銀貨を指先で確認しながら、こみ上げてくる喜びで思わずスキップしてしまう。日本では時給千百円で怒鳴られこき使われていたことを考えると、異世界はなんて最高な所だろうか。

 俺は金貨一枚を自分の報酬として、銀貨三枚を孤児院に寄付することにした。俺が今後大きく成功し、孤児院に還元していくことが一番重要なので、今は院長には銀貨で我慢してもらおう。そのうち金貨をドサッと持って行って驚かせてやるのだ!






1-5. ゴブリンの洗礼

 すっかり暗くなって孤児院へ戻ると、夕食の準備が進んでいた。
「院長~! ユータが帰ってきたよ~!」
 誰かが叫ぶと、院長が奥から出てきた。
 俺を見るなり院長は走ってやってきて、
「ユータ! 遅いじゃない!」
 と、怒り、そして
「大丈夫?」
 と、少しかがんで俺の目を見つめ、愛おしそうに頭をなでた。
 俺はポケットから銀貨三枚を出して言った。
「遅くなってごめんなさい。僕からの寄付です。受け取ってください」
「えっ!? これ、どうしたの?」
 目を丸くして驚く院長。
「薬草が売れたんです」
 すると、院長は目に涙を浮かべ……、俺をガバっと抱きしめた。
 俺は院長の豊満な胸に包まれて、ちょっと苦しくなってもがいた。
「ちょ、ちょっと苦しいです」
 孤児院の経営は厳しい。窓が割れても直せず、雨漏りも酷くなる一方だ。そんな中で、十歳の孤児が寄付してくれる、それは想定外の喜びだろう。
 院長はしばらく涙ぐんで抱きしめてくれた。
 ただ、手足が傷だらけなことを見つけると、長々とお説教をされた。
 確かに崖の採集には工夫が必要だ。明日からは柿採り棒みたいな採集道具は持って行こうと思った。

 アルは銀貨を見て、
「えっ!? 俺も行こうかなぁ……」
 と、言ってきたが、
「森まで二時間歩くよ、そこから森の中をずっと行くんだ」
 と、説明したら、
「あー、俺はパス!」
 と言って、走って逃げてしまった。十歳の子供には荷が重かろう。